その10時間余りの会談の成果は19日に署名された「包括的戦略パートナーシップ条約」だ。その中では「締結国が戦争状況下になれば、その国を保有しているすべての手段で軍事支援する」ことが明記されている。すなわち、ロシアと北朝鮮の関係は旧ソ連と北朝鮮が1961年に結んだ「ソ朝友好協力相互援助条約」から始まり、2000年締結した現行の「友好善隣協力条約」となり、今回再び1961年の相互軍事援助を明記した「軍事同盟」に復帰したということになるわけだ。
露朝関係が再び軍事同盟になったことが明らかになると、韓国側は非常に神経質になっている。新条約の第4条には、「一方が武力侵攻を受けた場合、すべての手段で軍事や他の援助を提供する」というのだ。金正恩氏が首脳会談後の共同記者発表で満面の笑みを浮かべていたのは当然だろう。もはや韓国軍を恐れる必要はない。同盟国のロシア軍が控えているぞ、といったところだろうか。
露朝新条約の第14条は、北大西洋条約機構(NATO)の第5条(集団防衛)とほぼ同じ内容だ。NATO第5条では、「欧州又は北米における一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなす。締約国は、武力攻撃が行われたときは、国連憲章の認める個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するために必要と認める行動(兵力の使用を含む)を個別的に及び共同して直ちにとることにより、攻撃を受けた締約国を援助する」(日本外務省欧州局政策課)と記されている。
プーチン大統領は北朝鮮労働党機関紙の「労働新聞」(18日付)に寄稿し、その中で「ロシアは、独立、アイデンティティ、そして発展の道を自由に選択する権利のための戦いにおいて、危険で攻撃的な敵と戦う北朝鮮と英雄的な朝鮮人民を絶え間なく支援しており、今後も支援していくだろう」と述べている。
興味深い点は、先の寄稿の中でプーチン氏はウクライナへの欧米諸国の支援に対し、強い怒りを吐露していることだ。「我々の敵対者たちは、ネオナチ・キエフ政権に資金、武器、諜報情報を供給し続けており、明らかに民間人を狙ったロシア領土への攻撃を行うために、現代西側の武器や装備の使用を許可し、事実上奨励している。彼らはウクライナに軍隊を派遣すると脅している。さらに、彼らはさらなる新たな制裁でロシア経済を疲弊させ、国内の社会政治的緊張を煽ろうとしている。彼らがどれほど努力したとしても、ロシアを封じ込めたり孤立させたりする試みはすべて失敗した。私たちは着実に経済力を強化し、産業、技術、インフラ、科学、教育、文化を発展させ続ける」と、敵意まる出しで決意を述べているのだ。
共同宣言文によると、そのほか、貿易の促進、宇宙・原子力を含む科学技術分野での協力拡大などが記されている。具体的には、ロシアからは日常品、食糧、原油などのほか、偵察用衛星関連の技術支援を、北側からはロシアに弾薬、ミサイルなど武器を供与する。インスブルック大学のロシア問題専門家、マンゴット教授は「ロシアと北朝鮮間の貿易総額は前年比の9倍に急増している」という。
なお、24条からなる露朝新条約について、マンゴット教授は20日、ドイツ民間ニュース専門局ntvとのインタビューで「プーチン氏は日本と韓国にも明確なシグナルを送っている。両国がウクライナ支援を今後とも続けるならば、ロシアは何らかの報復を行うと強迫しているのだ」という。韓国の尹政権はウクライナに戦闘用武器の供与を検討しているといわれるが、プーチン氏は韓国政府に「これ以上ウクライナを支援するな」と警告を発したというわけだ。
国際社会から孤立しているロシアと北朝鮮両国間の「軍事同盟」はいつでも暴発する危険性を内包している。そのうえ、露朝新条約に対して、中国がどのようなスタンスを示すか現時点では不明だ。日米韓は露朝間の軍事同盟に一層警戒する必要がある。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。