近年、スマートフォンやスマートTV、セキュリティシステムなどのスマートデバイスに搭載されることの多いモーションセンサー。このモーションセンサーを搭載した「スマート楽器」が楽器業界の革新的なトレンドとして急拡大している。

その規模は、2024年から2028年にかけて204.3億米ドルと予測されている。日本円換算で約3兆2,688億円(1ドル=160円換算)となる。

スマート楽器市場拡大を後押しするモーションセンサー

モーションセンサーは物理的な動きをリアルタイムで検出する電子デバイス。「モーション探知機」などとも呼ばれる。

モーションセンサーは、MEMS加速度計(加速度を測定する機器)や磁気センサー、ジャイロスコープ(物体の向きや角速度を検出する機器)、赤外線センサー、超音波センサーなどといった技術により構成される。消費者向けの身近な電子機器のほか、航空宇宙、防衛、自動車、医療分野など、幅広い用途で広く利用されている。

楽器業界でのモーションセンサー活用の例としては「ウェアラブル楽器」が挙げられる。ウェアラブル楽器とは、身体の動きや身振り手振りで音楽を奏でられるもので、“スマート楽器”とも呼ばれる分野だ。

今後拡大し続けるスマート楽器市場

Technavioの調査によれば、近年スマート電子機器と楽器の両方でモーション・センサーの採用が広がっていることから、世界的なスマート楽器市場の成長が見込まれているという。

メーカー各社が技術の進歩を通じて製品の差別化とさらなる付加価値化を追求していることから、スマート楽器市場の成長は当分続くと予想される。

市場の成長を阻害する「価格の高さ」

スマート楽器市場が拡大を続けると予測されている一方、成長を阻害する要因もある。それが「価格の高さ」だ。

スマート楽器は先進技術と耐久性を備えているぶん、現在は高価格で取引される傾向にある。革新的な機能を求める利用者には魅力的だが、予算重視の消費者にとってはその高価格が障壁となっている。

たとえばヤマハの製品で比較すると、従来のピアノが700ドルから1,100ドルで購入できるのに対し、スマートピアノは2,200ドルから3,000ドルと非常に高価なのがわかる。この大きな価格差から、スマート楽器は必需品ではなく、贅沢品と見なされる傾向にある。

スマート楽器には、購入後の拡張機能や、最小限のメンテナンスで長期間使用できるというメリットがある一方、その価格の高さから一般消費者には支持されていないという見方もある。この主要な消費者によるスマート楽器への消極的な姿勢が、市場拡大の足かせになるという予想も示されている。