オルバン首相の場合、トランプ前大統領ファンであるだけでない。ウクライナに軍侵攻するロシアのプーチン大統領とも友好関係を維持しているEU内で唯一の政府首脳だ。オルバン首相は親ロシア政策と批判される度に、「私はハンガリー国民の首相だ。ハンガリーの国益のためにロシアとの関係を維持しているのだ」と説明してきた。具体的には、ロシアの安価な原油、天然ガスの輸入はハンガリー経済にとっては欠かせられないため、EUの対ロシア制裁を支持できないのだ。
トランプ氏の「米国を再び偉大に」でもそうだが、「欧州を再び偉大に」というスローガンが具体的に何を目標に、どのように実現しようとしているのか、等々については明らかではない。単なるスローガンか、それともオルバン主義に基づいた独自の「欧州ファースト政策」かは現時点では不明だ。
ハンガリーは議長国の期間、EU加盟国の意見調整という重要な役割がある。だがハンガリー自体がEU内で「妨害者」、「阻止者」、「プーチンの信頼者」と呼ばれてきた。そのハンガリーが7月から定期的にEU理事会の議長国を務めるのだ。それ故ブダペストは議長国の立場を利用して、EUの業務をこれまで以上に妨害するのではないかといった懸念の声が聞かれるわけだ。
オルバン政権は議長国期間中、単独で立法を強行はしないが、議題設定を通じてロシアへの制裁を遅延させることが可能だ。ちなみにEUの共同外交政策においては、ハンガリーはいつでも拒否権を行使できる。
ところで、ハンガリーのEU議長国就任の日が近づいてきたが、オルバン政権で少し変化が見られる。オルバン首相は18日、北大西洋条約機構(NATO)のストルテンベルグ事務総長の後任としてオランダのルッテ首相を支持する意向を表明した。米英仏独は既にルッテ支持を表明してきたが、ハンガリーが拒否権を行使するのではないかと受け取られてきた。オルバン首相は7月初めにワシントンで開催されるNATO首脳会談前にルッテ支持を表明することで、自国への批判の風を少しは柔らげたい、という願いがあるのかもしれない。
欧州議会選で与党連立政権のハンガリー市民同盟(フィデス)/キリスト教民主国民党(KDNP)に次いでマジャール・ペーテル氏率いる保守新党「TISZA:尊重と自由(ティサ)」が得票率約30%を獲得した。同党はブリュッセル内の中道右派会派「欧州人民党」に所属するという。オルバン政権は欧州内でこれ以上孤立化することが次第に重荷になってきた。
オルバン首相がEU下半期議長国の就任を契機に、反ブリュッセル、反難民を旗印にEU懐疑的立場を掲げてきたこれまでの路線から、他の加盟国との妥協を模索する柔軟路線にチェンジするか、EUの全ての主要議題をブロックするか、オルバン首相の政治決断が注目される。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。