「欧州を再び偉大に」(Make Europe Great Again)と叫んでいるのは、欧州軍の創設や欧州独自の核抑止力を主張するフランスのマクロン大統領ではない。ハンガリーのオルバン首相だ。同首相がトランプ前米大統領の信奉者であることはよく知られている。オルバン氏は今年3月にフロリダ州のトランプ氏の私邸で同氏と会談している。オルバン氏はトランプ氏を「平和の大統領」と称賛し、トランプ氏はオルバン氏を「最高の指導者」と賞賛するなど、意気投合している。そのオルバン首相のハンガリーが今年下半期の欧州連合(EU)の議長国に就任するが、オルバン氏はトランプ氏のモットー「米国を再び偉大に」に倣って、「欧州を再び偉大に」というスローガンをEU下半期のスローガンにすることを決めた。

EU下半期の議長国に就任するハンガリーのオルバン首相=左から2番目(ブリュッセルで開催された非公式首脳会談で、2024年6月17日、ハンガリー政府公式サイトから)

民主主義、法治主義の欠如でEUの本部ブリュッセルから何度もイエロー・カードを付けつけられてきたオルバン首相はEUの異端児であることは自他共に認めている。そのハンガリーが今年上半期のEU議長国ベルギーからタスキを受け取り、下半期EU議長国に就任することに対しては、EU加盟国内で強い抵抗がある。例えば、EUの外交政策ではロシア軍の侵攻を受けて戦うウクライナへの継続的支援が大きな課題だが、ハンガリーはウクライナへの武器供与など軍事的支援を拒否し、対ロシア制裁にも同調していない。そのハンガリーが議長国となれば、EUのウクライナ支援が停滞するのではないかと当然懸念されるわけだ。

オルバン首相の「ハンガリーファースト」路線は西側では‘オルバン主義’と呼ばれてきた。ポーランドで昨年10月、8年間政権にあった右派与党「法と正義」(PiS)政権が選挙で過半数を失い、野党第1党の中道リベラル政党「市民プラットフォーム」(PO)が昨年12月、野党連合の政権を樹立させたことで、オルバン首相は反EU同盟のパートナーを失ったが、スロバキアのフィツォ政権が昨年10月、「スロバキアファースト」を掲げて政権を発足させたばかりだ。オルバン主義に共感するEU加盟国は少なくないのだ。