憲章の理念に反する恐れ
慶應義塾が掲げる「協生環境推進憲章」の前文では、
多様な価値観が並存する今日、年齢・性別・SOGI(性的指向・性自認)・障害・ 文化・国籍・人種・信条・ライフスタイルなど、様々な背景を有する人々が、誰一人として社会から孤立したり排除されたりすることなく、互いの尊厳を尊重し合う社会が実現されなくてはなりません。
との決意が表明されているが、女子限定食事支援は、同憲章の理念に反する可能性があるのではないかという声もある。
実施の根拠は十分であったか一方で、塾生からの理解を得られている性別を限定した支援策も存在する。
例えば、大学当局が女性のからだ支援「Breezeプロジェクト」の一貫として行っている女子学生に限定した生理用品の無償配付は、その必要性、公平性、基準などが合理的であり、批判する塾生は見当たらない。
しかし、本件の食事支援は、そのような合理的理由なく、男子新入生が不当に支援の対象から外されていると言えるだろう。
厚生労働省の人口動態統計によれば、栄養失調死・餓死者の約8割が女性ではなく男性であり、民間企業(LeoSophia)の調査によれば、女子学生は男子学生よりも平均して月3万円も多く仕送りを得ている。また、在学中のアルバイト等における男女の賃金格差を示していると広く認められている研究報告は、少なくとも日本国内においては存在しない。
慶應義塾は「東京での一人暮らしは女子学生のほうが男子学生より住居費がかかる」ことを実施の根拠にしているが、「多くの収入と支出がある」ことをもって支援の対象属性とするのは、逆進性が高い施策である可能性を否定すること出来ず、「Breezeプロジェクト」のような、女性特有の問題を解決するという目的のもと行われているとは言い難い。
一部の塾生からは、男性は平均基礎代謝量が大きく、必要なカロリーも多いため、むしろ男性にこそ食事支援が必要だ、といった声もある。
慶應義塾には女子学生が少ないということを理由に、アファーマティブアクションとして実施した可能性も否定できないが、そもそも日本全体としてみたとき、男女の進学率に優位な差はない。逆に、慶應義塾大学の看護医療学部に限れば、女子が95%、男子が5%であるが、看護医療学部で男性向けのアファーマティブアクションが行われているという話は聞いたことがない。
メディアや専門家からも指摘の声メディアや専門家など、塾外からも指摘の声が相次いでいる。社会の先導者の育成を目的とする慶應義塾が、社会から差別や論拠不足といった指摘をされてしまうのは、非常に残念なことだ。
「なぜ、女性に対する支援が必要なのかの論拠が示されていないのが、慶應大学の学生支援の問題点だ」(千葉商科大学准教授・常見陽平氏)
慶應大学が発表「女子新入学生向け」の食事支援が物議 “貧困男子学生は切り捨て”の声噴出…専門家からも疑問の声
『塾生議会』も調査に向け動く「当たり前のことですが、“経済的困窮”も、“一人暮らしにより支援が必要な学生”も女子学生に限らないはずです」(週刊女性 社会部記者)
慶應義塾大学がワタミと組んだ『学生の食事支援』が差別と炎上「食事支援に男女差を設けるのか意味がわからない」に支援側が回答「女子学生は少ない」
塾生の自治における最高意思決定機関である全塾協議会に設置される『塾生議会』(定数5)は、5月の定例議会において、全塾協議会執行部に対し「本件食事支援の実施の経緯及び見解について、大学当局に6月30日までに回答を求めること。」及び「その他、本件食事支援に係る塾生の違和感を解消するために必要な措置を講ずること。」を勧告する決議(性差別撤廃に係る議案)を賛成多数で可決した。
週刊誌やインターネットメディアからの取材に対しては回答を行わなかった慶應義塾であるが、「塾生自治の最高意思決定機関」からの質問には回答を行うのか、非常に注目される。
福澤諭吉先生の教え慶應義塾大学創始者の福澤諭吉先生は「男といい女といい、等しく天地間の一人にて軽重の別あるべき理なし」との言葉を述べられた。性別や経済的背景などを問わず、意欲と実力のある人物が広く活躍できる社会の実現を目指すことこそが、慶應義塾に課せられた大きな使命ではないだろうか。
慶應義塾が自らこの食事支援を再考し、「気品の泉源、知徳の模範」としての信頼を取り戻すことを信じたい。
■
國武 悠人 慶應義塾大学在学。消費者庁 令和6年度消費者支援功労者(内閣府特命担当大臣表彰)。統計報告調整審議会や情報公開制度運営審議会、男女共同参画推進委員会など行政附属機関で委員。認知科学、法社会学が専門。