受賞の決め手となったアーセナルの新戦略


各分野のファイナリストと受賞者および事業内容はフットボール・ビジネス・アワーズの公式サイトで公開されている。それによるとアーセナル女子が受賞した理由として、観客動員数の増加を狙い2022/23シーズンから行った新戦略が挙げられている。その重要なポイントのひとつが、男子チームのホーム「エミレーツスタジアム」の活用だ。

アーセナルは昨シーズン、女子チームの試合をエミレーツで8回開催。そのうちWSLの3試合すべてで4万人を超える観客を動員した。さらに、同スタジアムで昨年5月2日に行われたUEFA女子チャンピオンズリーグ準決勝のVfLヴォルフスブルク女子(ドイツ1部)戦では6万枚以上のチケットを売り上げ、クラブ史上初の完売も達成している。


この成功を足掛かりに、今年2月にはWSLのマンチェスター・ユナイテッド女子戦でも完売を記録するなど最多動員数を更新し続けている。エミレーツに通い慣れた観客層の取り込み戦略が功を奏し、同スタジアム開催の女子チーム試合平均観客数(WSL)はなんと52,029人にまで拡大。これにより、2024/25シーズンからは遂にアーセナル女子のホームがエミレーツになることが正式に決定した(2024年5月14日付)。

アーセナル女子が昨シーズンから地道に取り組んで来た戦略は見事な成功を遂げ、女子チームひいては英国における女子サッカーの環境を大きく変えた。この功績はフットボール・ビジネス・アワーズで評価されるに相応しく、最優秀賞の受賞も納得だ。


アーセナル・ウィメンのサポーター 写真:Getty Images

サポーターファースト精神がもたらした相乗効果

これらの成果を生み出したポイントについてアーセナル女子は「サポーターファーストのコミュニケーションとマーケティング戦略」「積極的な販促キャンペーン」「クラブ全体の賛同」など複数の項目を挙げている。なかでも絶大な効果を挙げたと考えられるのが「サポーターファースト」の姿勢だろう。

男子の試合が行われているエミレーツには、試合の度に多くの熱狂的なサッカーファンが集まっている。実際にスタジアムを訪れ一歩足を踏み入れただけで、その規模感と独特の雰囲気に心が踊る。そんな情熱と興奮を備えた場所で女子チームの試合を行うことは、それまで閑散とした客席で観戦していた女子チームファンに高揚感を与えるとともに、そもそもエミレーツに集っていた大勢の熱いサッカーファンに新たな楽しみを提供した。これは男女問わずアーセナル推しのファンにとって、最高の機会となったはずだ。

今後、アーセナルのホームゲームが男女共にエミレーツに完全統一されることを考えると、女子チームのチケット完売頻度や、価格の変動にも注目が集まりそうだ。