「協議の調整や仲介などの対応は行っておりません」

 積水ハウスは解体を判断した理由について11日に発表した文書で「現況は景観に著しい影響があると言わざるを得ず、本事業の中止を自主的に決定しました」としており、着工後も周辺住民から反対の声があがっていたことがうかがえる。こうした状況のなか、市は積水ハウスと住民の間の調整に乗り出すなど、何らかの対応を行ったのだろうか。

「工事着工後については、近隣住民から陳情は出されておりませんし、協議の調整や仲介などの対応は行っておりません」(国立市)

 元ゼネコン社員はいう。

「国立市は景観を重視するとして厳しい条例を定めており、そのためきちんと手続きをして承認を得て着工し、ほぼ完成したにもかかわらず住民の反対で解体に追い込まれるとなれば、建設事業者としては何を担保にして建設してよいのかわからない。こんなことがまかり通れば、リスクが高すぎて、国立市にマンションを建てようと考える事業者は出てこなくなる。市としては『行政手続きは済んだので、あとは民間事業者と住民の間の問題なので関与しませんよ』というスタンスなのかもしれないが、このような事例が生じると住宅供給の面で将来的に住民の生活に支障が生じる懸念もあり、市として調整なり仲介なりに入ってもよかったのではないか。行政の不作為だという声もあり、なんのための市なのか、わざわざ条例に基づいて手続きをして承認を得たのは何のためだったのかと疑問を感じます」

 不動産事業のコンサルティングを手掛けるオラガ総研代表取締役の牧野知弘氏も11日付け当サイト記事で次のように指摘していた。

「事業者が適切な行政手続きを踏んで建物を建設し、それに対し住民が反対して解体に至るという一連の事態について行政が対処しなかったという『行政の不作為』を問う声もあるでしょう。このような事態が起これば、業者としてはあまりにリスクが大きすぎて、もう国立市に新たにマンションを建設できなくなります。それが果たして街の発展にとって良いのか、という点は議論があるでしょう」