ユーザーにも企業にも大きなメリット

同社のYouTubeアカウントでは、Hughes氏自らが自社ネットワークについて解説した動画を視聴できる。身分証明で必要なのは電話番号・暗証番号の入力や、QRコードの読み取り程度だ。

ID再利用には、ユーザーの離脱防止という大きなメリットがある。本人確認に物理的な身分証明書や顔写真の撮影を求めると、面倒に感じたユーザーはそこで諦めてしまうのだ。筆者も、とある企業のeKYCで写真の判定が厳しすぎて断念した経験がある。ネット上でも同様の声が多数寄せられていたが、このような事態を防げるわけだ。

企業側も大幅にコストを削減できるうえ、開発者を念頭に置いたTrinsicのシンプルな APIは主要プログラミング言語のほとんどで利用できるという。

Image Credits:Trinsic

ユーザーにも企業にも大きな恩恵をもたらす同社のサービスはローンチ前から注目を集めており、Trinsicは2022年6月に850万ドルの資金調達に成功している。

誰もが簡単に身分を証明できる「ワンタップの未来」を目指して

Trinsicは2019年にRiley Hughes氏らによって設立された。Hughes氏は、以前にもスクーターのハンドルバーを開発・販売するスタートアップを立ち上げた経験の持ち主だ。

デジタルID分野に足を踏み入れたのは、大学卒業後に勤務したNPOでのことだった。求人広告にあった「ブロックチェーンと本人確認が出会う場所」という見出しに心を奪われたのだが、早々に本人確認の課題に気づいたとしている。

市場の成長も見込まれる中、1クリックまたはタップで本人確認ができる「ワンタップの未来」を目指すというTrinsic。今後同社のネットワークがどこまで拡大していくのか注目していきたい。

(文・里しんご)