iPhoneだけで身分を証明できるようになるーー2024年5月、岸田首相がAppleのTim Cook CEOとオンラインで協議した結果、2025年春にもiPhoneにマイナンバーカードの「電子証明書」機能が搭載されることとなった。Androidスマホではすでに2023年5月から開始されているサービスだが、iPhoneのシェアが高い日本では大きな動きと言っていいだろう。
オンラインで本人確認を行う「デジタルID」ソリューション市場は、世界的に急成長する見込みだ。Markets and Marketsの調査では、2023年時点で約345億ドルだった市場規模が2028年までに832億ドルに達すると予測。年平均で19.3%の急激な伸びが期待されている。
この波に乗りそうなアメリカのスタートアップが、「Identity Verification」(本人確認・身元証明)に代わる「Identity Acceptance」(身分証受容)を掲げるTrinsicだ。他のサービスやアプリで過去に認証済みのIDを“再利用”する「本人確認ネットワーク」を構築している。身分証や顔の撮影は前時代的な身分証明
ディープフェイクやAI生成メディアの蔓延により、身分証明ソリューションの需要が急増している。しかし、現行のオンライン身分証明は、断片化と複雑化が進んだ非効率かつ前時代的なもの。
Trinsic共同設立者兼CEOのRiley Hughes氏は、Forbesのインタビューで「これだけ技術が進んだ時代に、プラスチックの身分証を取り出してスマホのカメラで撮影するのが最先端の身分証明なんて、ばかげている」とまで言っている。
各種サービスを初めて利用するたびに、消費者は何度もいちから同じ手順を踏まなくてはならない。ユーザー体験は悪いし、1人の人物を何度も確認することで同じ情報が複数個所に重複して保管される。一ヵ所でもデータ侵害が起きれば、個人情報が洩れてしまう。
このような課題を解決するのが、2024年5月にローンチされたTrinsicの「Identity Acceptance」ネットワークだ。過去に認証済みのIDを再利用する(つまり、アナログIDではなくデジタルIDを提示する)ことで、身分証明書や運転免許証をわざわざ取り出すことなく本人確認を済ませられる。従来の10倍速く完了し、詐欺や不正行為の危険性も減るという。ネットワークのイニシャルパートナーに含まれるのはCLEARやYoti、IDverse、Airside、Dentityなど数十社。これらの企業が有する認証済みのIDは合計で6000万人を超える。再利用できるデータがそれだけ大量にあるということだ。