ドイツの場合、SPD、「緑の党」、そして「自由民主党」(FDP)の3党連立政権の合計得票率がCDU/CSU1党のそれと同じ程度という惨敗を喫した。ドイツ国内で「ショルツ政権は国民の意思を反映していない」という声が高まり、来年実施予定の連邦議会選の早期実施を求める声が更に強まることが予想される。

当方が住むオーストリアの欧州議会選(定数20議席)では、予想通り、極右政党「自由党」が得票率約25.5%で前回比で8.3%増で、与党「国民党」24.7%を抜いて全国レベルの選挙では初めて第1党になった。キックル党首は「国民の意思が初めて表明された選挙だ」と勝利宣言をし、今年9月末ないしは10月初めに実施予定の連邦議会選でも第1党となり、自由党初の連邦首相になると宣言した。国民党は得票率で前回比で約10%減を記録し、ネハンマー政権への風当たりの強いことが改めて明らかになった。

各国の政治情勢や事情で多少は異なったが、選挙戦では移民・難民問題、物価の高騰、そしてロシア軍のウクライナ侵攻によって誘発された欧州の安全保障問題、そして環境問題等が争点となった。

欧州議会選の結果、EUに批判的であり、ウクライナ支援に消極的な極右政党が躍進したことで、EUの今後のウクライナ支援に変化が出てくることも考えられる。オーストリア自由党の筆頭候補者ビリムスキー氏は「国民の利益に関連する問題をブリュッセルが決定し、それを加盟国に押し付ける体制ではなく、加盟国の意向を重視するEUに改革すべきだ」と主張、「加盟国ファースト」を強調している。

欧州議会選の結果で興味深い点は、ドイツやオーストリアで環境保護政党「緑の党」が低迷したことだ。ドイツの「緑の党」は前回比でマイナス8.8%を記録、オーストリア「緑の党」も同様、マイナス3.2%で1議席を失った。

ドイツの場合、脱原発を実施し、再生可能なエネルギーへの移行が推進中だが、エネルギーコストの急騰で、ドイツ製品の競争力が落ちてきたといわれる。また、中国製電気自動車(EV)が欧州市場を席捲しようとしていることに、ドイツの自動車産業は危機感を持っている。「緑の党」のイデオロギー主導の環境政策に欧州国民は批判的になってきている。

欧州議会選が終わり、会派の勢力が明らかになれば、次は欧州委員会の選出に焦点が移る。フォンデアライエン現委員長の再選の可能性は高まってきているが、同委員長がメローニ首相と接触し、極右派の支持を得ようと腐心しているといった批判の声も聞かれる。同委員長は前回の選挙では6票の差で辛うじて選出された経緯がある。

EUはこれまで「統合された欧州」をモットーに米国に対抗できる政治力、外交力を獲得しようとしてきたが、ウクライナ支援問題ではハンガリー、スロバキアなどはブリュッセルの政策を拒否するなど、27カ国のEU盟国の間で利害や政策の対立が浮き彫りになってきた。ロシアのプーチン大統領はEUの分断工作、偽情報の拡散に乗り出してきた。それだけに、EU27カ国の「結束」が先ず大きな課題だ。

欧州議会本会議場 欧州議会HPより

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。