ちなみに、スイス公共放送協会(SRG)のスイスインフォ(日本語版6月5日)によると、「社会民主党(SP/PS)が提出した動議は、イスラエルとパレスチナという2つの主権国家が存在することが永続的で公正な平和の基盤になると訴えている。ハマスが昨年10月7日に拉致したイスラエル人人質を解放するという条件で、国家承認するよう提案していた。賛成票を投じたのは社会民主党と緑の党(GPS/Les Verts)だけだった。討論は白熱し、時に感情的になった」という。

パレスチナ国家承認では、「パレスチナ国家をイスラエルとの和平合意の一部としてのみ承認する」というのが西側諸国の基本的方針だった。その観点からいえば、ガザ紛争の状況はそのような情勢からほど遠い(「パレスチナ国家承認は時期尚早だ」2024年5月30日参考)。

スイスは過去、イスラエル・パレスチナ間の領土紛争を巡っては、「1967年境界線により、イスラエルと将来の独立したパレスチナ国家が平和かつ安全に共存することを目指す『2国家解決案』を支持し、パレスチナの主権国家の樹立を支持してきた。国連の安全保障理事会は4月、パレスチナの国連加盟の勧告を求める決議案の採決を行ったが、スイスはパレスチナの国連加盟が「現時点では適切ではない」「中東情勢の沈静化と和平努力につながらない」として投票を棄権している。

スイスの代表紙「ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング」(NZZ)は「パレスチナ国家承認は、イスラエルとの改革と和平プロセスを成功させるためのゴールであり、インセンティブ(誘因)でなければならないが、ノルウェー、アイルランド、スペインは現在、パレスチナ人にアメを与え、同時に、イスラエルに一方的に圧力をかけている。それにより和平は1センチも前進していない」と報じている。全く正論だ。

最後に、スイスインフォ(日本語版)が報じていた面白いエピソードを紹介する。

スウェーデンが2014年、西側で初めてパレスチナ国家承認をした時だ。「イスラエルのアヴィグドール・リーベルマン外相(当時)は『スウェーデン政府は、中東関係は自分で組み立てるイケアの家具よりも複雑であることを理解すべきだ。この問題は責任と繊細さをもって処理されるべき』と述べた。それに対して、スウェーデンのマルゴット・ヴァルストローム外相は『私は喜んで(リーベルマン外相に)組み立て式のイケアのフラットパック(家具などを部品に分けて隙間なく梱包したもの)を送りたい』と返答した」

激しい攻撃が続くガザ地区 PRCS(パレスチナ赤新月社)Xより

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。