ADHDに関する認識と関心の高まりにともない、世界的に診断率が上昇し続けている。特に増加傾向の強い日本では、大人も子供も診断に詰めかけクリニックの混雑が続く状況だ*。

しかし、ADHDの診断には複数回の受診が必要で時間がかかるうえ、診断結果が明確でない場合もある。血液検査や脳波検査、画像検査などの“客観的”な手段が使えないうえ、過剰診断や誤診を問題視する専門家も多い。

このようなADHD検査の現在の在り方に疑問を唱えるイスラエルのスタートアップMindTensionが独自のデバイスとソリューションを開発した。 臨床医がADHDをより効率的かつ正確な方法で評価・診断・治療できるようになり、客観性・信頼性の高い良心価格の診断を可能にするという。

Image Credits:MindTension

EMG(筋電計)を使って注意力を測定

MindTensionはイスラエル南部のキブツ(共同体)ニルアブを拠点とするデジタルヘルス企業で、医療デバイスを開発している。「テクニオン」の通称で知られるイスラエル工科大学での研究活動から生まれたスタートアップで、設立は2020年。

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イスラエル最古の大学にして世界最高峰の工科大学で、世界有数の科学者たちが12年にわたり研究に取り組んだ結果、独自のアルゴリズムを開発した。このアルゴリズムを用いたデバイス「MindTension」と診断プラットフォームによって迅速かつ超高精度の注意力測定を行う。わずか5~6分でADHDの兆候を検出可能だとしている。

MindTensionは、EMG(筋電計)システムを活用するもの。まず、デバイスを介して聴覚情報で脳幹を刺激する。次に、独自アルゴリズムを使用してまばたきを含む眼輪筋の微小な動きを追跡、観察する。聴覚刺激に対する脳幹の反射および抑制のレベルで注意欠陥の度合いを測る。音に対する驚きの反射が大きいほど、あるいは抑制レベルが低いほど注意力が低いということになる。

視覚情報に対する意識的な行動を調べる従来の検査とは対照的な、聴覚情報に対する無意識の反射に注目するアプローチだ。生理学に基づき注意力を数値で測定することで、“不正確な科学”だった注意力検査を“正確な科学”に変えるという。

不正確で主観的な現在のADHD診断方法を問い直す

MindTension社の主張によると、「現在のADHD診断は“不正確な科学”」であり、「業界で標準とされている検査は患者側の協力に依存」し、「数百もの神経経路がからむ複雑な行動に依拠しているため正確性が劇的に下がる」。

ADHD業界で用いられるコンピューターによる検査は、主に視覚刺激に対する被験者の反応を分析するが、この反応は脳の複雑な回路を経たもの。診断の支援になるよう設計されているが、精度が不十分で扱いにくく、複雑かつ主観的であるという。

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現在のADHD診断は、アメリカ精神医学会が作成する「DSM-5」(精神障害の診断と統計マニュアル第5版)の基準に基づき、臨床医が“主観的”な情報を組み合わせて下す。「診断には不確実性や不正確性があり時間がかかるため、患者や家族のみならず医療制度、保険会社、ひいては社会全体に苦痛と不要なコストを生じさせる」というのが同社の指摘だ。