オーバースペックの税理士

そろそろ、日本も税務申告を税理士の「独占業務」から解放してはどうか。

実務では、「反射的に答えが浮かぶスピード」も、(試験で必須の)「電卓」も必要ない。求められるのは、適正さとソフトウェアの使いこなしだ。この先AIが導入されれば、ますます簡便化が進む。もはや、人生の10分の1を費やし獲得するようなスキルではない。

逆に言えば、税務申告に従事する人材として、税理士は「オーバースペック」なのだ。

彼らのスキルは、資金繰り、相続、事業承継(M&A)対策などコンサルティング領域に振り向けるべきだろう。特に事業承継は、経営者の高齢化により、中小企業の大きな課題となっている。税理士たちなら、課題解決に大いに貢献できるはずだ。

エストニアから学ぶこと

先に述べた「エストニア」について補足しておこう。同国はデジタル先進国であり、政府が2017年に調査を実施している。

この調査報告書(政府税制調査会海外調査報告)によると、エストニアでは、新興企業・中小企業の経理・税務サポートのため、「政府が」会計システムを提供している。これにより、法人税などの申告が大幅に迅速化されている。所得税に至っては、修正が無ければクリックのみで申告が完了し、5日以内に還付されるという(※5)。

税制もシンプルだ。

相続税・贈与税なし。法人税・所得税とも20%のフラットレート。法人税の課税は配当時のみ。これだけシンプルであれば、企業は自社内で税務申告できる。税理士が激減するのもうなずけるだろう。

企業をサポートするためシステムを提供したこと。制度を単純化したこと。国が行った、この2つの施策により、エストニア企業の税務負担は大幅に軽減された。

翻って日本はどうか。逆だ。たとえば、今月(2024年6月)から始まる定額減税である。制度が複雑なため、企業・自治体から不満の声が上がったことは記憶に新しい。政府が制度を複雑にし、企業負担を増大させている有様だ。

いまや、日本の税制は、10年の学習が必要なほど複雑になった。

制度の単純化、規制の撤廃、IT化の推進。デジタル後進国日本が、デジタル先進国「エストニア」から学ぶべきことは、決して少なくない。

エストニアでは20年以上前から電子政府化が進んでいる|政府税制調査会 海外調査報告 (エストニア・スウェーデン)より

エストニアでは20年以上前から電子政府化が進んでいる|政府税制調査会 海外調査報告 (エストニア・スウェーデン)より

【注釈】

※1 税理士 – 職業詳細 | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET)

※2 ・税理士 税理士制度|国税庁 ・中小企業者数 中小企業庁

※3 1か月あたり 最低額 旧税理士報酬規定|freee税理士検索 税理士の費用・報酬相場と顧問料まとめ|freee税理士検索

※4 米国における税務業務|2000年 米国調査研究視察報告|国際部レポート|東京税理士会 英国の税務行政と税制の概要|国税庁国際業務課

※5 政府税制調査会海外調査報告(エストニア、スウェーデン)

【参考】 税務・会計分野で飛躍的に電子化が進むエストニア|OBCNetサービス

クラウドが描く未来。東欧の小国エストニアから税理士が消えたわけ | クラウド会計ソフト マネーフォワード

6月から定額減税 「減税+給付」の仕組みが複雑 :東京新聞 TOKYO Web