から風呂は、「ぬるい方」から
着替えを終えて、早速サウナへ。ワクワクと少しの不安で胸が高鳴ります。壁と天井は煤で黒くなっていて、大きなピザ釜のようなドーム型の石室が2室鎮座しています。入口にはそれぞれ「ぬるい方」「あつい方」の札がかかっていました。
ピザ釜のような石室
ちょうど火を焚く作業をしていた「あつい方」の石室の中では轟々と音を立てて炎が燃え盛っていました。炎の勢いは凄まじく、空いた扉の外に炎が漏れ出して、入口上部を覆うほどの勢い。「え、これからこれに入るの?」と一瞬で怖じ気づいてしまうほどでした。
「え、これからこれに入るの?」
恐々と石室を眺める我々を見かねて、案内の方が、「こっちなら大丈夫だよ」と「ぬるい方」を指差し、から風呂への入り方を改めてレクチャーしてくれました。
ポイントは中の熱気が逃げないように、扉を開けたら瞬時に中に入ること。そして入ったら、奥から詰めて入口側を向いて座ること。ぬるいといっても壁は高温なので、手をついたりするのは火傷の危険があるのでNGです。
「はい、はい、どうぞ入って!!」
心の準備も一切できぬまま、促されるままに初めてのから風呂の中へ。石室の中は細長く、真っ暗です。入口の窓から入る外の光が、わずかに室内を照らします。
下にはゴザが敷いてあり、その上に持って入った座布団を敷いて体育座り。「ぬるい方」といえど、これまで入ったどのサウナよりもしっかり熱かったです。
「ぬるい方」でもしっかりと熱い
石室の中でじっと静かに座りながら熱さに耐えること数分。背中や足を汗が伝うのを感じながら、「窯で焼かれるピザっこんな気分なのかな・・・」とぼんやり考えていました。
「熱い!!! 限界...!!!」
約10分後、石室を飛び出して向かいにある休憩スペースへ。通常のサウナとは異なり、から風呂に水風呂はありません。熱い石室から出たら、そのまま板の間に寝っ転がり、しばし休憩をとります。
板敷の休憩スペースには、開いた窓から心地よい風がよく通り、時折、田畑の上を飛ぶトンビの鳴き声も聞こえます。熱った身体を横たえて、心臓の音を聴きながら、ゆったりと整いタイム。微風と、床板の冷たさが心地よく、ふわふわとしたいい気分で横になっていました。
微風と床板の冷たさが心地いい
いざ「あつい方」、150°の世界へ!
その後、「ぬるい方」に4回出入りを繰り返した後、「あつい方」の炊き上がりの時間になりました。扉を蓋するのに使われていた板が外され、休憩スペースまで熱気が届きそうなほどの蒸気が扉から溢れています。
「あつい方」が炊き上がった
その頃になると、常連の方々が続々と到着。「マイ座布団」を持参する人もいて、そうした常連客の方々が、私のような一見さんに「あつい方」の入り方を手取り足取り教えてくれました。
炊き上がったばかりの「あつい方」の温度は150°を超えています。そのため、中に入るには、「ぬるい方」同様の装備にプラスして、厚手の毛布を頭から被っていく必要があります。
厚手の毛布を頭から被って入る
「熱気が毛布の内側に入ってこないようにね!」と言いながら、常連さんが石室の中でのうずくまり方を指導してくれました。
肌に熱気を当てると火傷する恐れがあるので、身体全体をすっぽり覆い、膝を抱えるようにして、座布団の上に草履を履いたままうずくまります。顔はしっかり毛布の中に隠すことが大切とのことでした。
「もう無理って思う前に、出てきなね!はい、どうぞ!」
レクチャーをしてくれた常連さんの合図で、恐る恐る、湯気たつ石室の中へ。中は真っ暗で、毛布をかぶっているため歩きにくく、あまり奥へは進めませんでした。適当なところで座布団をおろします。
親切なレクチャーを受けていざ「あつい方」へ
すでに、もう熱い・・・。開始3秒で、全身をすっぽり灼熱の膜で覆われたように、熱が毛布越しに伝わってきます。
少しすると、背中に火を直接当てられたような熱さを感じました。どうやら毛布に隙間があったようで、慌てて毛布の位置を調整。熱気が入り込まないように、ぎゅっと毛布の端を握り直します。
その時の気分は、「炭窯の中の炭になったよう」とでも言いますか。「限界を迎える前に出る」という約束をきっちり守り、1分ほどであえなく白旗をあげました。
外に出た瞬間、
これまで体験したとのない爽快な気持ちに
外に出て、毛布を取った瞬間の空気は、とっても爽快。スウェットはわずか1分でも汗でびちょびちょでした。
普段、サウナや温泉に入った後は、気怠さや眠さを感じることも多かったのですが、から風呂は一切ありません。まさに爽快そのもの。身体中の毒素と疲れが一瞬で吹っ飛んだような、羽が生えたような軽さを感じることができました。
「から風呂があるから、風邪もひかず長生きできてるんだ」
週に2、3回来るという80代の常連さんの言葉にも納得。毎日でも通いたくなる“から風呂ファン”の気持ちがよくわかります。そのくらい、衝撃的なスッキリ度でした。
岐路につくときも美しい景色が広がる