金与正副部長の発言で気になる点は、彼女が「汚物風船」について真剣にその背景を説明し、いつものように韓国側を脅迫していることだ。そこにはユーモアのかけらすら感じられない。「汚物風船」を説明する金与正副部長の精神状況は常に緊張したままだ。いつかプツーンと切れてしまうのではないかと心配になってしまう。

北朝鮮の風船にディズニーランドで買ったおもちゃなどを入れて南に向けて飛ばせば、韓国国民は大喜びで、風船の行方を追い回すだろう。その状況を朝鮮中央通信(KCNA)がライブで報道すれば、北朝鮮の最高の宣伝となるだろうし、韓国軍が緊急体制を敷くといった事もなくなるはずだ。

ところで、北から飛来してきたのは「汚物風船」だけではない。2022年12月26日、北朝鮮の5機の小型無人機が韓国領空に侵入するという出来事があった。北朝鮮問題といえば、核トライアド(大陸間弾道ミサイル、弾道ミサイル搭載潜水艦、巡航ミサイル搭載戦略爆撃機の3つの核兵器)が主要テーマだったが、無人機が加わることで、北の軍事力、日韓への攻撃力は飛躍的に拡大することが予想された出来事だった(「北無人機の韓国侵入が見せた近未来」2022年12月31日参考)。

韓国の首都ソウルに姿を現した北の無人機に対し、「なぜ撃墜しなかったのか」といった批判の声があったが、韓国関係者によると、「戦闘機は無人機の撃墜を避けた」という。その理由は「撃墜した場合、地上で民間人が犠牲になる危険性が考えられた。無人機に化学兵器が搭載されていたならば大惨事だ。そのため、韓国空軍パイロットはあえて撃墜しなかった」という。

「汚物風船」でも同じことが懸念される。今回は北の汚物だったが、生物兵器、化学兵器、放射性ダーティ爆弾が入っていたらそれこそ一大事だ。軍事用語でいう「戦略的曖昧さ」が北側の狙いではないか。ただの「汚物風船」だが、ひょっとしたらダーティ爆弾ではないかと相手側に思わせることができれば、戦場での戦いを有利に展開出来る。これこそ立派な戦略的曖昧さだ。北から飛んできた「汚物風船」は北軍部の高等戦略かもしれない。

ただ、出来る事ならば、次回は「汚物風船」ではなく、北の特性のおやつか食材入りの「北特産物風船」ならば大歓迎されるだろう。そうなれば、北の風船を朝鮮半島だけに限定せず、日本海を飛び越えて日本国民にもその恩恵を分け与えてほしいものだ。「北特産物風船」は岸田文雄首相の訪朝より日朝友好の上で数段効果的だろう。

ミサイルの威力示威射撃を指導する金正恩総書記 北朝鮮HPより(編集部)

編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年6月2日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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