絶滅危惧種のうなぎ、完全養殖の商業化も困難

公式サイトの「インパクト」ページにあるとおり、同社の事業はうなぎを含む絶滅危惧種を保護するだけでなく、人口増加に伴う食糧問題解消にも貢献、海洋資源の持続可能な活用をも実現するものだ。

Image Credits:Forsea Foods

さらに、世界のうなぎ消費の7割を占める日本にとっては、少なくとも奈良時代から続く食文化を継続するうえで大きな助けとなる(万葉集に「石麻呂に われ物申す 夏痩に 良しといふ物そ 鰻取り食せ」という大伴家持の詩が収録されている)。

うなぎは世界的にも絶滅が危惧される保護対象の生物であり、供給は長年にわたり厳しい状況が続く。上述したオイシックス・ラ・大地のリリースにも、「日本国内のうなぎ供給量は平成12年の約16万トンに対し、近年は約5万トン」とある。日本の食用うなぎの99%以上を占める養殖うなぎは稚魚の漁獲量減少を受けて高値続きだ。

Image Credits:Forsea Foods

1976年からうなぎ養殖の研究を続けてきた近畿大学水産研究所は2023年7月、「養成した親魚から仔魚を得る」完全養殖に大学としては初めて成功。しかし、同年10月に発表したリリースでは、「低コストで大量生産できる目途は立っていない」としている。

そこに登場したのが、天然・養殖という概念を超越したForseaの培養技術。うなぎの完全養殖よりも培養商業化の方が先に実現しそうな状況になったのだ。

うなぎを食べないイスラエルから日本で事業展開

実は、国民の約7割がユダヤ教徒であるイスラエルでは、宗教的理由から基本的にうなぎを食用にしない。Forseaのうなぎ肉培養事業は完全に国外向け、日本市場をターゲットとするもの。LinkedInでは「土用の丑の日」に言及、培養うなぎが土用の丑の日に日本の食卓に上る日が待ちきれないと投稿している。

Nir氏や日本での事業展開を担う杉崎氏の努力によって、培養うなぎを日本で普及させるための準備は着々と整っているようだ。今回のSusHi Techでは杉崎氏が「国境を越えたイノベーション推進」パネルに参加したほか、Nir氏は一般来場者にプレゼンを行い、同社事業の進捗を紹介。「最も革新的なスタートアップ」の1社に選ばれた。


2025年までに何らかの形で本格的な製品販売を開始するというForsea Foods。同社の培養技術はうなぎ以外の魚にも応用可能だが、取り扱うのは絶滅の恐れがあり、需要に供給が追い付いていない種だけだという。うなぎの次もIUCNの絶滅危惧種リストにある水生生物を選ぶ予定とのことなので、今後の展開に注目したい。

(文・澤田 真一)