国連開発計画(UNDP)が開催した「人道支援と早期復旧~ガザ戦争による社会・経済的影響の分析とパートナーシップ~」というイベントを傍聴した。ガザ危機への関心の高さを反映して、実務家や研究者を中心として、多くの参加者を得ていた。だが何とも言えない虚無感を覚えた。
青山の国連大学ビルで開催された会議では、来日中のUNDP本部のアラブ地域局長であるアブダラ・アル・ダルダリ氏が基調講演を行い、「いつかは停戦合意がなされる、そのときのために復興の準備しなければならない、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇、〇〇・・・、沢山のことが必要になる、そのために備えておくべきだ、UNDPは復興を主導する準備がある」と、政治家を含む日本人たちに訴えかけた。ちなみにダルダリ氏は、2005~2011年にわたりシリアのアサド政権下で副首相を務めたシリア人で、最後はアサド大統領の従弟にあたる人物と仲たがいをして政権を離れたとされるアラブの政治家と言ってよい人物である。
当日の司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志氏は、「二国家解決にすらコミットしていないイスラエルの軍事占領下での復興は可能なのか」、「破壊だけしてイスラエルは復興費用を全く負担しないということでいいのか」といった質問をパネリストに投げかけたが、「難しい質問だ」とかわされるだけで、最後まで質問と回答がかみ合うことはなく、「いずれにせよ復興への準備が必要だ」という日本へのアピールだけが繰り返された。
もちろん開発援助機関が、内々に様々な将来の活動の可能性を考えておくのは間違ったことではないだろう。しかし、会場の外では、世界中で沢山の人たちが、どうやったら空前の市民の殺戮を止めることができるのかと悩み、必死で運動をしている。なぜ今、公開イベントで日本の政治家らに、「今から復興の準備をしておくべきだ、UNDPは復興を主導する準備がある」、と訴えかけるイベントを催す必要があるのか、会場には判然としない雰囲気が漂っていたように感じた。
パネリストとして加わっていた駐日ヨルダン大使らが、「イスラエルの責任」を不問にすることはできない、という主張をしていたが、それは個人の見解であるかのように扱われ、他のパネリストからの反応を得ることはなかった。
そもそも、なぜ、駐日パレスチナ代表部の大使は、パネリストとして招かれなかったのか?駐日パレスチナ代表部の関係者が会場にいる様子もなかった。駐日パレスチナ代表部の関係者を招くことなく、「パレスチナ人のために早期復旧の準備を今から進めておくべきだ」という主張を、アサド政権元副首相のシリア人のUNDPアラブ局長が延々と行い続けている様子は、どこかに奇妙さを感じさせるものであった。
UNDPをはじめとする国連機関は、「人道・開発・平和」のための活動を、切れ目なく行うことを「NEXUS」という用語で、表現している。国連の人道援助、開発援助、平和活動を行う各機関は、相互に協力して、無駄なく活動を行う、という訴えである。UNDPによれば、日本は「NEXUS」を行うための有力な「パートナー」、つまり資金提供者である。