浦和を救った栗島

攻守両面でリズムを掴めなかった浦和は前半23分、相手のコーナーキックから失点。木下のキックに合わせたのはDF村松智子で、強烈なヘディングシュートがゴールネットに突き刺さった。同40分に清家が味方FW島田のスルーパスに反応し速攻を結実させたものの、同43分に繰り出された東京NBの自陣からのパス回しを止めきれず。最終ラインの背後を菅野に突かれたうえ、追加点を奪われた。

浦和の楠瀬直木監督は、後半開始前に栗島を投入する。角田との交代で後半からボランチを務めた背番号6が異彩を放ち、戦況を一変させた。

後半開始から僅か20秒後、栗島はDF長船加奈(センターバック)と右サイドバック遠藤の間へ早速降り、自陣からのパス回しを司る。この栗島のプレーは3月3日のWEリーグ第8節INAC神戸レオネッサ戦と、同月20日の第11節マイナビ仙台レディース戦で得点に結びついたものだ。

この栗島のポジショニングによって得られる効果は、WEリーグ屈指の快足MF遠藤を高い位置へ上げることだけに留まらない。栗島がここでボールを受けることで縦方向と右サイドへのパスどちらも可能になるため、相手チームとしては守備の的を絞りにくい。東京NB戦の後半開始直後には、栗島がタッチライン際の遠藤ではなく、その内側に立っていた清家への縦パスを成功させている。最終節でも栗島の絶妙な立ち位置からチャンスが生まれており、東京NBはこれに対処できていなかった。

相手チームがハイプレスを仕掛けず、自陣や中盤で守備隊形を整えている状況では、栗島が自らボールを運ぶ。このときの体の向きが秀逸で、同選手は目の前の守備者に常に正対できている。ボールを保持した際、パスを出したい方向やドリブルしたい方面へいち早く体を向ける(半身の構えを作る)選手がいるが、これだと対峙選手にパスやドリブルのコースを読まれやすく、体の向きとは逆方面へのパスも難しい。本人が正対を強く意識しているかは不明だが、この体勢が常に整っていることで、栗島は相手にパスコースやドリブルのコース取りを読まれにくい状況を作れている。東京NB陣営もこれに手を焼いていた。

これらの栗島の好プレーで勢いづいた浦和は、後半24分に長船がコーナーキックからゴールを挙げ1点差に詰め寄る。後半44分には東京NBのMF木下が浦和DF石川璃音へのスライディングタックルにより、この試合2枚目のイエローカードを貰って退場処分に。2023/24シーズン限りでの浦和退団が発表されている清家が、この直後のフリーキックから同点ゴールを挙げたことで、同クラブは最終節での黒星を免れた。

栗島朱里 写真提供:WEリーグ