次々と登場するインシュアテック企業によって、保険業界に変革が起きているアフリカ大陸。中でも南アフリカは2022年に505億7000万ドルと推定された巨大市場だ。そこではアフリカ最多数のインシュアテックスタートアップが激しい競争を繰り広げている。
「南アのインシュアテックスタートアップは123社」としたTracxnのリストでトップに挙げられているのが、ヨハネスブルグに拠点を置くNakedだ。テクノロジーを活用してアクセスしやすく費用対効果の高い保険商品を提供し、急速な成長を果たした。
Nakedは2016年にAlex Thomson氏、Sumarie Greybe氏、およびErnest North氏によって設立されたインシュアテック企業である。完全デジタルな保険サービスを実現、ユーザーはアプリやウェブサイトを通じて自動車保険、家財保険などの保険商品を購入できる。国際金融公社(IFC)が主導した2023年のシリーズBラウンドでは1700万ドルの資金を調達、新規市場への拡大と技術革新の継続に投入した。 共同設立者のThomson氏は、この資金調達について「我々が、南アフリカにおける完全デジタル保険サービスのパイオニアであることを証明するもの」と語っている。
同業他社の追随、変革者であり続けることの困難
確かにNakedはデジタルファースト戦略にフォーカスし、南アフリカにおける完全デジタル保険の先駆者的存在となった。
従来の保険業界につきものだった煩雑な書類手続きを排除、保険の加入から保険金請求まですべてアプリで行えるようにした。AIがチャットで365日24時間対応、保険金の請求手続きがわずか12秒で完了する様子を同社公式サイトの動画で視聴できる。Redditでは、Nakedアプリについて「使いやすい」「非常に処理が早く問題なく支払われた」といった口コミが確認される。
Naked社の革新性は、契約者と保険会社間の長年の相互不信を解消した点にもある。同社の保険は決まった料金以外に謎の手数料や不明瞭な費用が一切かからない。それが「naked(むき出し・ありのまま)」という社名の由来なのだ。
それはすなわち、従来の保険会社と違ってNakedの収益は請求された保険金の支払額に左右されないことを意味する。加入者からの請求を困難にしたり査定を厳格にする理由もない。企業と消費者がWin-winになれるシステムを構築し、透明性を実現したことが同社の大きな個性だ。だが市場の競争が激化する中で、「アプリで全手続きを処理可能」、「コールセンターの代わりにAIがチャットで対応」、「コスト削減で実現した低価格商品」といった要素はNakedの専売特許ではなくなりつつある。起業当時は「革新的」だったものが早々に「普通」になってしまったのだ。