「わたしの場合、趣味と実益を兼ねて、僻地での仕事をしていくうちに、やり甲斐の面からも、僻地医療に対して情熱を持つようになりました。当初『とにかく医師の仕事を広範囲に色々とやってみたい』だったわたしの仕事スタイルが、僻地医療をライフワークにする方向に変わっていったのです」(同)

渡辺さんは、僻地医療を活性化させるためには、若い力が必要不可欠だとも言います。

「今は、臨床研修制度が変わり、『地域医療実習』を必ず受けることになりました。若い医師たちが数か月、僻地の病院で研修するのです。将来的に、在宅医療に携わりたいという先生もいます。そういう先生たちは、喜んで地域実習を受けており、頼もしいなと感じます。稚内の病院では、若い先生が2年ごとに研修に来ています」(渡辺さん)

モラル教育の必要性

医療における課題は様々です。僻地医療も重要ですが、筆者はモラル教育が重要ではないかと思います。とくに、医師と関わる関係者のモラル改善は優先すべき事案です。

10年以上前の出来事になります。筆者の祖父母が90歳を過ぎて認知症を発症した際、要介護5級と評価されました。家族だけで介護することは困難なことから、在宅医療とホームヘルパーの派遣を要請します。

数カ月が経過してからあることに気が付きました。祖父は郵政省を定年退職しており、退官時に金時計を贈呈品としてもらっていましたが無くなっていたのです。

ほかにも、希少価値の高い、切手シート、切手、古銭、古貨幣、エラー切手、エラーコイン、般若・おかめの面などもすべて無くなっていました。金庫の中に入れていた現金や有価証券、金塊なども全て消えていました。

驚いたのは、新興宗教団体の入会申込書と、資産をお布施として提供する旨が書かれた書類を発見したことです。被害額は数千万円にのぼった可能性もあります。

関係者に照会したところ、「日頃のお礼に受け取ってほしいと言われて、仕方なくもらった」という回答でした。日常会話が不可能で、すでに家族を正しく認識することができない状態です。虚偽であることは明白でした。

リスク対策が身を守る

警察に相談したものの介入には消極的でした。録画など決定的な証拠が必要だったのです。その後、関係者とは連絡がとれなくなりヘルパー派遣会社は倒産します(事件発覚を恐れた結果の計画倒産と判断しました)。

素晴らしい志をもつ医師も大勢いると思います。しかし、なかには人の弱みにつけ込む、似非医師やトンデモヘルパーがいることも事実です。センシティブな問題だからこそ、このよう問題にも向き合うべきではないかと思います。

本書ではフリ―ランス医師ならではの、自由な論評を目にすることができます。これらの論評からいまの医療業界における課題が見えてくるかもしれません。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

2年振りに22冊目の本を出版しました。

「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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