従来のスキャン画像と比較した結果…

研究チームはここ数カ月間で約20人の健康なボランティアを対象にイズールトを用いた脳活動のスキャンを実施。

その結果、これまでに到達したことのないレベルでの鮮明な脳画像が得られました。

こちらがその画像で、左から3テスラ・7テスラのMRI、そして11.7テスラのイズールトを使った脳画像で、スキャン時間はどれも4分間です。

左から3テスラ・7テスラ・11.7テスラのMRIで撮影した脳画像(スキャン時間は4分間で統一)
左から3テスラ・7テスラ・11.7テスラのMRIで撮影した脳画像(スキャン時間は4分間で統一) / Credit: CEA – A world premiere: the living brain imaged with unrivaled clarity thanks to the world’s most powerful MRI machine(2024)

イズールトで撮影した脳画像は、一般に使用されている3テスラのものに比べて遙かに鮮明度が増していることがわかります。

研究者によると、3テスラでイズールトと同じ精度の画像を得ようと思えば、患者を数時間はMRIの中に閉じ込めておかなければならないという。

しかしイズールトであれば、わずか数分でかつてない解像度での脳画像が得られ、病気の検出や治療が大幅に向上すると期待できます。

これはMRIのような圧迫感のある閉所を苦手とする患者さんには嬉しい進歩です。

メカニズムが不明瞭な病気の解明にも

研究者らはこれと別に、パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患うつ病や統合失調症などの精神疾患といった、いまだにメカニズムがよく分かっていない病気の解明にも役立つと考えています。

例えば、アルツハイマー病には脳の特定の領域である「海馬」が関与しているとされますが、具体的にどのように影響を及ぼしているのかは定かでありません。

そこでアルツハイマー患者の海馬をイズールトで調べることで、健常者とどのような動きの違いがあるかを見つけられると期待できます。

CEAの研究者であるアン=イザベル・エチエンヴル(Anne-Isabelle Etienvre)氏は「治療の難しい疾患を詳しく理解することができれば、早期の発見とより効果的な治療が行えるようになるでしょう」と述べました。

イズールトで撮影した脳画像
イズールトで撮影した脳画像 / Credit: CEA – A world premiere: the living brain imaged with unrivaled clarity thanks to the world’s most powerful MRI machine(2024)

ただ、人体での安全性の確認や品質の改善をする必要があるため、実際の患者に使用されるまでにはあと数年かかるといいます。

チームは今後数カ月のうちに新たなボランティアを募って、イズールトを用いた脳スキャンを実施する予定です。

元論文

World’s most powerful MRI scans first images of human brain

World’s most powerful MRI machine captures first stunning brain scans

A world premiere: the living brain imaged with unrivaled clarity thanks to the world’s most powerful MRI machine

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

海沼 賢: ナゾロジーのディレクションを担当。大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。