世界で最も強力なMRIスキャナー、通称「イズールト(Iseult)」が開発され、初めて人体での臨床試験が実施されました。
イズールトはフランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)がドイツの技術者たちと協力し、20年の歳月をかけて完成させた最新のMRIです。
これは通常3T(テスラ)のMRIの磁束密度を、11.7Tまで出力を上げたもので、これにより一般に使用されているMRIの10倍以上の高解像度で脳をスキャンすることができるといいます。
一体どのくらいの違いがあるのか、実際のスキャン画像をもとに見比べてみましょう。
従来のMRIの10倍以上のパワーを誇る「イズールト」
MRI(核磁気共鳴画像法)は、磁気の力を使って体内の臓器や血管の状態を撮影する医療機器です。
MRIが作り出す磁場は「テスラ(T)」という単位で表され、その数値が大きいほど、短いスキャン時間で質の高い画像を得ることができます。
現在の臨床現場で使用されているMRIはだいたい0.2〜3.0テスラです。
しかしCEAの研究チームが開発したイズールトは、これらを遥かに上回る11.7テスラという驚異的なパワーを誇ります。
これは一般的な病院で使われているMRIの10倍以上とのことです。
イズールトは全長と高さがそれぞれ約5メートルの円筒形で、中には132トンの磁石が内蔵されています。
イズールトを開発した主な目的は、脳の構造を細部にわたって理解すること、それから薬剤投与などの医療タスクを行ったときに脳のどの部分がどのように活性化するかをこれまで以上の解像度で理解することです。
本プロジェクトに参加している物理学者のアレクサンドル・ヴィグノー(Alexandre Vignaud)氏は「イズールトを使えば、大脳皮質に栄養を送る微小な血管や、これまでほとんど見えなかった小脳の細部まで見ることができる」 と話します。
また同プロジェクトの科学ディレクターであるニコラス・ブーラン(Nicolas Boulant)氏は「11.7テスラの磁力を利用すれば、例えば本を読んだり暗算をするときに脳がどんな動きをしているかなど、脳の構造と認知機能の関係もより鮮明に調べることができる」といいます。
同チームは2021年に初めてイズールトを実験的に使用しましたが、そのときのスキャン対象は「カボチャ」でした。
しかし最近になって保健当局から人体での利用許可が下りたため、ついに人を対象とした臨床試験が実施されました。
ではイズールトによるMRIスキャンでは、従来と比べてどれほど鮮明な画像が得られたのでしょうか?