カナダで今回完成したグループホームを見に来たあるシニア団体のトップの方がしみじみと呟きました。「自分のところでもこのような施設をもって運営したい。多分、資金は集められると思う。だけどそれを開発して運営する人がいない」と。

5-6年ほど前、当地の日系組織が所有していた土地にシニア向け施設を作ることになり、資金も集め建物が完成しました。多くの日系人はようやく日本人向けの新しい施設が出来たと喜んでいたら運営者がローカルの会社で入居者の日本人比率は2-3割ぐらいに留まり、期待していた食事もたまに日本食が出る程度で失望感を買いました。一定の経験やノウハウを持つ人材が日系社会では払底しつつあるのです。

バンクーバーエリアには個人事業主の寿司屋さんのような飲食店が点在してます。多くは10年経っても20年経っても同じ店、同じスタイル、店が大きくなるわけでもなし、きれいに改修するわけでもなし、店舗が増えるわけでもありません。皆さん、一匹狼でカラダを張って毎日仕事をされています。ですが、私も32年もいるとビジネスの栄枯盛衰どころか、一生を見てしまうこともあります。多くはオーナーが歳をとり、店をたたみ、終わりを遂げるのです。

海外では事業継承が困難なのかもしれません。理由は簡単で経営者が後継者を育てなかったのです。その理由も簡単で一人経営者の状態で運営しているので後継を育てられないのです。移民一世と二世でも温度差は違います。更に世の中が急速に変化する中で親のやっている事業が子供には決して魅力的には映らないのでしょう。

では日本に視点を移してみましょう。昭和の時代に一念奮起して店を開けた経営者も今や70代。子供たちは親のビジネスよりも有名企業勤務を望みます。親の世代は事業の特別なノウハウというより長年の顧客を大事にする傾向が強くなります。すると経営者はお客様の流出を恐れ、値上げもせず、昔のままで体力の続く限りビジネスを続け、最後に「長年のご愛顧に感謝します」の一枚の紙が入り口に貼られるのが顛末でしょうか?

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日経に「休廃業5万社、進む淘汰 昨年コロナ禍超え 10年で最多 円滑な事業譲渡・雇用確保重要に」という記事があります。このタイトルが全てを物語っています。私がコロナの頃、コロナ補助金やゼロゼロ融資で延命措置をしてもコロナ明けにバタバタと倒産と休業が急増するだろうと申し上げたのですが、想定通りとなりました。コロナは単に行動制限や3年間の忍耐というより「コロナ後は浦島太郎の世界だった」という方が正しいと思います。

日本には400万社あるとされます。大企業の子会社、関連会社はともかく、今後、個人事業主を中心に年間5万社減どころか、ピークには8万社ぐらい減ってもおかしくないとみています。会社は継続性の原則がありますが、人の命は無限ではないのに、バトンを渡せず継続しようがない、という自明であります。その上、ビジネスシーンが日進月歩となり、5年前のビジネスが今でも流行る理由はないのです。

ビジネスは淘汰される、よって会社数も減る、これも宿命と考えています。以前フェアシェア理論の話を何度かしました。例えばラーメン屋を開業するとします。自分の店を中心に500メートルの円を描き、そこに住む人口が5000人、ラーメン屋が既に4軒あり、ラーメン屋が何処も同じ値段、同じ質である限り、そこに新規開店すると一つの店には1000人の潜在顧客があると計算します。私がかつてこの理論をご紹介した時は新規開店の話がベースでした。