日本の産業経済構造とエネルギー政策の現状

日本のマクロ経済動向の分析を行っている慶応義塾大学産業技術研究所長の野村浩二所長は、先日国際環境経済研究所に寄稿した論考「エネルギー多消費産業を国内から追いやってはいけない」の中で、日本の産業経済構造をマクロ分析した結論として、日本では製造業が「世界市場でその価値が高く評価される製品を生産する」仕事を通じて、国内でも相対的に高い賃金の雇用集団を支えていると共に、日本の「経済構造を支える屋台骨」となっていると指摘している。

そのうえで、

「現在の日本経済の強みはエネルギー多消費的な素材産業にある。そうした素材産業の利用するエネルギーとは、石炭やLNGなどの化石燃料に依存していることは偶然ではない。そうしたエネルギーは相対的には内外価格差がまだ抑制されてきたからであり、国内外の生産における競争上の不利はそれほど大きくないからである。(中略・・・)利用するエネルギー価格に大きな内外価格差が生じてくれば、日本国内は生産立地として選択されない。」

と指摘している。つまり、国際的な競争環境を踏まえたエネルギー政策、日本が投資先として選択されるような産業エネルギー政策こそが、今後の日本経済の成長の可否を左右するというのである。

日本政府が掲げるGX戦略のシナリオは、カーボンニュートラルに向けた革新技術の開発・実用化に20兆円の政府資金を先行投入することで、官民合わせて総額150兆円の投資を誘発して、日本経済を成長軌道に乗せるというものであるが、このGX移行に向けた革新技術実装への150兆円の投資が、国内の生産設備、資本形成に向かわずに海外で行われてしまえば、恩恵を受けるのは海外経済であって国内の雇用や経済に直接的な恩恵がもたらされないという結果となりかねない。

一方、産業用のエネルギーの海外との相対コストを一定の範囲に抑えることで、投資先としての国内立地のハンディキャップをなくすことができれば、日本経済にはまだまだ勝ち目があるということも野村教授は指摘している。

「持続的な円安と、米国に比して半分程度のレベルにまで下落してしまった日本の賃金水準、この二つの経済環境のもとでは、外需(輸出)にこそ活路を見出し、国内製造業を復活させる好機である。労働不足を補う技術はすでに存在しており、長期にわたり低迷してきた労働生産性を回復させながら賃金を高めていく余地は十分に残されている。国内における労働所得の拡大は、進行する高齢化社会における潜在的需要に力を与え、顕在化した需要は日本の関連産業を活気づけるだろう。それは高齢化が急速に進行するアジア諸国での莫大な需要に応える成長産業となる。」

第7次エネルギー基本計画:日本はドイツの轍を踏むな!

今年は政府が3年ぶりにエネルギー基本計画を策定する年である。「第7次エネルギー基本計画」の検討にあたっては、上に示したように産業活動の衰退と海外逃避を伴う気候変動目標達成を「歓迎」するようなドイツの轍を踏むことは絶対に避けるべきであり、真に日本に経済成長をもたらし、日本国民を豊かにするエネルギー政策がどうあるべきか、また何をしてはいけないかといった問題について、真剣に分析・検討することが求められる。

そのうえでGX戦略の実施の担い手であり、期待される150兆円のGX投資の主役となる産業界とも国際競争の実態をふまえた議論を尽くして、国内に安心して投資が行われ、ひいては海外からの投資資金をも呼び込むことが可能なものとするような「エネルギー基本計画」を策定していくことが肝要である。

※1)「ドイツの温室効果ガス排出、昨年10%減、30年の寄稿目標達成へ」 ※2)IMF世界経済見通し改訂版(2024年1月) ※3)Gross domestic product: detailed results on economic performance in the 4th quarter of 2023 ※4)Germany’s industrial gloom deepens as production falls

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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