牛丼屋のイメージ打破したチャレンジ精神で女性客を掴む
女性客増加の理由はなんなのか。
「理由はいくつかありますが、総じていえることは牛丼チェーンが持っていた『男性がメインに食べる場所』というイメージを崩す戦略を、すき家は率先してやってきたというところでしょう。1899年創業の吉野家と1966年創業の松屋に比べて、すき家の創業は1982年と比較的新しく、それゆえに『チャレンジ精神の追求』が生き残りにおいて重要な戦略になっていたという下地があります。
すき家のそうしたチャレンジ精神からくる戦略のひとつに、最初にミニサイズの牛丼を売り出したというものがあり、個人的にこれが女性層を狙い始めた最初の一手だったように思えます。都心部の駅前を中心に展開していた吉野家とは異なり、もともと郊外のロードサイド店舗を中心に店舗展開していたすき家は、想定される来店客も車で訪れるファミリー層をメインにしていたので、夫や食べ盛りの子どもたちと一緒に来店した主婦でも楽しめるように、ミニ牛丼を用意したのでしょう。
2000年ごろから世間では健康志向が強まってきていますが、それに合わせてこのミニ牛丼とサラダをセットで注文する女性客が多くなっていった印象もありますね。また、すき家はご飯を豆腐に変えた『牛丼ライト』というシリーズも展開しており、牛丼とは相反するイメージもある健康志向を先行して積極的に取り入れていったのも、客層拡大に一役買っていたと思います」(同)
すき家は現在、テレビCMのキャラクターに女性人気の高い女優・石原さとみを起用しているが、こちらもそういった戦略の一環なのだろう。牛丼の固定イメージを崩してしまいそうな大胆な戦略は、一見するとリスキーにも思えるが、「牛丼店に行ってみたいけど男性客ばかりでハードルが高い」と二の足を踏んでいた女性層獲得という面で見ると、うまく機能したということか。
「キムチ牛丼やおろしポン酢牛丼など、変化球のトッピングを牛丼に取り入れていったのもすき家でした。そのほかにも、牛丼以外のメニューを積極的に展開していったのも印象的ですよね。カレーや海鮮丼といった牛丼以外のメニューを用意したことで、女性客の精神的な敷居を下げられたのもひとつの要因です。
また、店舗のデザインもカラフルかつポップで、吉野家などと比べて店内が明るいですよね。これは来店の敷居を下げるという要素において、かなり大きなポイントになっていると思います。そして俯瞰して見ると、こうした予算のかかるイメージ戦略を打てたのは、母体となるゼンショーHDの資金力が豊富だったことも大きな要素です」(同)