生物は似たような見た目でも様々な種に分類されているものですが、実は海の王者として知られるシャチは、これまで「シャチ」という名前(種名)でひとくくりにされ、世界に1種とされていました。
しかしついに、そのシャチの分類が更新され2種類にわけられました。
その名は「Orcinus rectipinnus(オルキヌス・レクティピヌス、英名:Bigg’s killer whale)」と「Orcinus ater(オルキヌス・アータ、英名:resident killer whale)」。前者のrectipinnusは「直立したヒレ」、後者のaterは「黒い」という意味です。
こうした話を聞くと、そもそも生物における「種」とは何なのだろうと疑問に思う人もいるかもしれません。今回は新たなシャチの分類を紹介するとともに、生物学における種の分け方、学名の付け方について解説していきます。
この研究はアメリカ海洋大気庁(NOAA)のモリン氏(Phillip A. Morin)を中心とするチームによって実施され、2024年3月27日に科学誌「Royal Society Open Science」に掲載されています。
20年超しの悲願? シャチの分類の更新
「知能が高い」、「黒と白の美しいツートンカラー」、「海の王者」、「家族との強い絆」、シャチの印象をきくだけで、いかにこの動物が魅力的であるかがよくわかります。
水族館に行っても、図鑑をひらいても、ネットで検索しても「シャチ」という名前の動物を知ることができます。
このことから、私たちは「シャチを1つの動物」として認識していることがわかります。
しかし、2004年、科学者たちは「私たち人間がシャチと呼んでいる動物は、住んでいる海域によって姿や暮らしがまるで異なるために、本当にシャチを”1つの名前の動物”として認識してよいのか」と考えていました。
実際、シャチはその形態や生態の違いから9~10のタイプに分類できるという考え方がひろく知られています。
例えば、魚ばかり食べるシャチの集団もいれば、クジラやアザラシばかり食べるシャチの集団もいます。大きな群れを作るシャチの集団もいれば、小さな群れを作るシャチの集団もいます。
2004年から2023年まで、科学者たちは「シャチの認識」に対する問いに答えを出すことができませんでした。しかし、ときは2024年、アメリカ海洋大気庁(NOAA)のモリン氏(Phillip A. Morin)を中心とするチームがついに一つの結論を出しました。
その結論とは「少なくとも、北太平洋に生息するシャチは2つの異なる動物として認識すべきである」というものです。
モリン氏らは、これまで「シャチ」という名前(種名)でひとくくりにされていた生き物を「Orcinus rectipinnus(オルキヌス・レクティピヌス」と「Orcinus ater(オルキヌス・アータ)」という2種類に分けることを提案しました。
なお、前者のrectipinnusは「直立したヒレ」、後者のaterは「黒い」という意味です。
オルキヌス・レクティピヌスは2~3頭と小さい群れを形成し、クジラなどの大きな餌を食べるといった特徴をもっています。一方、オルキヌス・アータは10頭ほどの大きな群れを形成し、サカナなどの小さい餌を食べるという特徴をもっています。
また、体の形に注目すると、レクティピヌスは、アータに比べて大きいといった特徴があります。なお、この2種は、遺伝的にほぼ100%区別できることもわかっています。
さて、「動物の名前がわかれたことって、そんなに大事なことなの?」、「なんで日本語の名前で呼ばずに、こんな難しい言語で動物の名前を書いているの?」、「動物の名前はだれがどうやって決めるの?」と頭のなかにハテナマークがついた人がたくさんいるでしょう。
そこで、世の中にいる生き物の多様性を認識することがいかに大事であるか、また動物の名前に関するルールについて考えてみましょう。