好反応を得るも、海外進出は企業体力を養ってから……

ーーDG TAKANO社の最初の製品である「Bubble90」について教えてください。


DG TAKANO社の‟起点”となった節水ノズル「Bubble90」

高野:Bubble90は、最大で95%、平均で80~90%ほどの水の使用量を削減する、蛇口に取り付けるノズルです。

会社設立1年目、さらに社長1人の会社が2009年に初めて作った製品ですが、名だたる大企業を差し置いて「超モノづくり部品大賞」のグランプリに選ばれました。

これは、世界の水不足の問題に貢献できる可能性があること、日本人だから作れたであろうというところを高く評価されたと思っています。

ーー海外でBubble90はどう受け止められたのでしょうか?

高野:Bubble90を開発してすぐにドイツのベルリンで行われた展示会に出展したんです。「日本からすごいモノが出てきた」と騒がれて、やっぱりメイドインジャパンの「ブランド力」を感じたし、世界がどれだけ水に困っているかも実感できました。

ただ、その時点では、いきなり海外に進出するノウハウも、企業体力もありません。企業体力がついたころに、水資源の問題はさらに深刻さを増して、ニーズはより高まるはずだと考えて、まずは国内に向けて動きました。

日本は、水道料金が高いんです。水を使うビジネスに向けて、コスト削減効果が高いと紹介しました。時間はかかりましたが、大手のレストランチェーンやスーパーで導入されはじめました。

今では、会社も人数を増やすことができ、自分も中東やヨーロッパに進出しようと飛び回れるようになりましたね。


2023年、ヨルダンの産業・貿易・供給大臣兼労働大臣ユセフ・マフムード・アル・シャマリ氏と

「常識を疑い」水ですすぐだけで洗える食器を開発

ーーBubble90に続いて、水だけで洗えるという食器「meliordesign(メリオールデザイン)」が製品化されました。

高野:日本の企業が節水ノズルを作って成功したら、次は節水の蛇口やトイレを作るのが定石で……小規模なTOTOさんになっていきます。これは、自分たちの技術を使って何を作るか、というところを突き詰める日本的な、技術者のモノづくりの発想です。

DG TAKANOが普通の蛇口を作ったら、TOTOさんや他の水栓メーカーに負けます。食器も然りです。でも蛇口を作るメーカーは、節水する食器を作れないし、食器メーカーも節水する蛇口は作れない。蛇口で節水して、洗うときにも節水する。食器洗いの水の量を従来の1%にまで減らせたら、イノベーションが起きます。

節水ノズルでも食器でもそれぞれオンリーワンの特許を持つ「世界でうちだけ」の製品を作ってイノベーションを起こせます。

スティーブ・ジョブズやイーロン・マスクは自分たちの技術を使って何を作るかなんて考えていないはず。これが「社会課題をどう解決するか」というデザイナーの視点です。

ーーmeliordesignは磁器を加工していますね。コスト・価格を抑えられるプラスチック素材のほうが、世界を見渡したとき汎用性が高いとも思いましたが「陶器や磁器で食事をしたい」というニーズを踏まえたのでしょうか?

高野:開発にあたって、さまざまな素材を試しました。「水だけで洗うことができるか」という視点から生まれた製品なので、現時点ではプラスチックなどではなく磁器が素材です。多くの人が日常で使っている「お皿」が、水だけで汚れを落とせることを強調するという考えもありました。

ーーたしかに、洗剤を使って汚れを落とすことを当たり前だと思っていました。

高野:「常識を疑うこと」をずっとやってきました。今までないものが出たときに、当たり前にやってきたことの理由だったり、ムダだったり、いろんなことに気がつきますよね。

DG TAKANOを、みなさんは水栓メーカーだと思っていたんですよ。「デザイン会社です」と、ずっと僕は言ってきたんですけど。このお皿を発表したときに、驚かれました。初めて「デザイン会社」だということが、少しだけ理解されたんです。