世襲への布石
そんなトヨタの人事で大きな注目を集めたのが、20年の副社長職の廃止だ。
<トヨタでは、(20年)4月に降格となる4人の副社長を含めて、執行役員の21人は全員、同格の立場となる。つまりトヨタの業務執行の階層は社長と、その下にそれぞれ担当を持つ執行役員が並列でぶら下がるだけで、社長に権限を集中させる。サプライヤーなどから「最早、章男氏の暴走は誰も止められない」との懸念も出ている。
トヨタは2019年に常務役員、常務理事、基幹職1級・2級、技範級を一括りして「幹部職」に集約した。これが(豊田氏の息子の)大輔氏を幹部にするのが目的と見られている。大輔氏は現在、トヨタの自動運転技術の開発子会社TRI-ADのシニア・バイス・プレジデント。以前ならトヨタ本体に復帰した場合、無理に昇格させても「基幹職2級」程度どまりと見られるが、制度改正でいきなり幹部職に就くことができるようになった。加えて、従来、トヨタの社長は副社長の中から選抜してきたが、今回の副社長職の廃止で、次期社長候補となる執行役員に大輔氏が就くまでの期間を大幅に短縮できる>
その一方、豊田会長と親しい人物は人事面で抜擢されてきた。17年に59歳の若さで副社長に就任した友山茂樹氏は、テレマティクスサービス「G-BOOK」の立ち上げなどで豊田氏と一緒に仕事をした経験もあることから2人は親密な関係といわれ、社内では「お友達」といわれていた。友山氏は一時はコネクティッドカンパニーとガズーレーシングカンパニーの2つの社内カンパニーのプレジデント、TPS本部、事業開発本部、情報システム本部の3つの本部長を務めるなど、重用されていた(すでに執行役員を退任)。
トヨタ関係者はいう。
「今回の『文春』記事内で注目されるのは、章男さんからの覚えがめでたい執行役員の小林耕士さんと長田准さんが、2人そろって章男さんが決めたある人事に苦言を呈したというエピソードだ。章男さんにモノを言えばどうなるのかを十分にわかっている2人が、こうした行動に出るというのは、よほど今の状況に危機感を持っているということ。
もともと章男さんの前任社長だった渡辺捷昭さんは、章男さんを評価しておらず、章男さんを社長にする気はなかった。そこにリーマンショックの影響でトヨタが巨額の赤字を計上することになり、09年、章男さんの父・豊田章一郎さんが渡辺さんにその責任を取らせるかたち退任させ、半ば強引に章男さんを社長に据えた。その後、トヨタの業績は見事に回復し、章男さんには数字に裏付けされた実績と自信がある。一方、章男さんは創業家出身者であるがゆえに、トヨタに入社して以降、社内では陰に陽にさまざまな視線や声を浴びせられ、トヨタという会社の人間に対して複雑な感情を抱く部分もあるだろう。そうした感情と経営者としての自信が重なり合い、自身に対し耳障りなことをいう人物を排除するという行動に出るのかもしれないし、実際に今の章男さんには排除できてしまう力がある。
ただ、業績回復を遂げられたのは、当然ながら章男さんだけの力によるものではないし、今のような異物を排すかのような人事を続けていれば、業績が好調なうちは良いかもしれないが、長い目でみればトヨタの実力を削ぐことにつながる。その代償は将来、息子の大輔さんが社長になってから一気に表面化するかもしれない」