AIは人の心を獲得するのか?
――最後に少し話題を変えて、一般の読者にとっても、気になる点を聞きたいと思います。
佐藤:答えられることなら、なんでもどうぞ(笑)
――人間の感情をAIが学習して理解していけば、やがてAIは人の心のようなものを獲得することができるのでしょうか?
佐藤:う~ん、そうですね…いろいろ言い方はあると思いますが、1つ確実なのは、感情を読めることと、感情自体があることは別ということです。たとえば顔認識AIにも笑顔や泣き顔を認識できるものがあります。しかし顔認識AIが認識できるのは顔の各パーツの変化を学習しているからであって「楽しい」「悲しい」といった感情を備えているからではありません。(産総研マガジン「AIと感情」)
――今回の接客支援AIは、人間の感覚器官のかなりの要素から学習して、異種混合の情報を統合して感情を推測していますが、それでもダメでしょうか? 情報統合の過程で何か予測不能な不思議な処理が行われている可能性はありませんか?
佐藤:「予測不能」という部分は、確かにあるでしょう。AIは学習することで人間の脳に似たニューラルネットを育てていきます。しかし成長しきったニューラルネットの「どの接続」が「どんな処理」を行っているかは、AIを作った開発者側にもわかりません。ただ今後、AIに感情や意識のようなものが芽生える可能性は否定できません。それは明日かもしれませんし、100年後になるかもしれません。
お話を聞き終えて一言
ここ数年で急速にAI技術が伸びて来たことで、まるでSF世界のようにAIに心が芽生えるのか? 人間の職を脅かす存在になるのか? という不安を真剣に抱く人も増えてきました。
実際、文章生成・画像生成・動画生成など、人間にしか作れないと考えられていたクリエイティブな分野の多くでAIが活躍するようになっています。
そのため、AIの発達にある種の恐怖を感じている人たちもいるかも知れません。
しかし研究者は、このような現実に対し過剰に恐れを抱く必要はないと語ります。
AIはあくまで道具であり、人の暮らしを豊かにするための存在だからです。
AIが感情を持つように見えたとしても、それは心を持つということとは大きく異なります。
佐藤さんが語ったのは、AIが人の感情を理解できるようになるならば、人間が仕事において心理的に負担を感じる部分を分担してもらえるだろうということでした。
特に接客などの、相手よって対応の仕方が大きく変化する仕事は、関わる人たちの心に大きなストレスを与えます。
新人教育などの場面でも、ミスや問題点を指摘したり叱ったりすることは、指摘される当人にもストレスですが、叱る側の上司にも心理的な負担になります。
こうした部分を人間の感情が読み取れるよう学習したAIに担当してもらうことで、人間の心の負担を軽減できるのではないかというのです。
今回紹介した研究は、AIが接客業を支援するというものでしたが、AIが人の感情をよく理解し、さまざまな場面で適切な対応の仕方を提供できるようになれば、未来の世界では人間が仕事をするときにストレスを感じることがほとんどなくなっているかもしれません。
脚注
※1 :ヒューマン ・ インタラクション 基盤技術コンソーシアム事務局 発行「XR接客トレーニングシステム」ガイドライン ダイジェスト版
※2 :Semi-automatic Reply Avatar for VR Training System with Adapted Scenario to Trainee’s Status
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ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
産総研マガジン編集部: 日本最大級の国立研究機関、産業技術総合研究所。通称:産総研。ぶらぶら歩いてその土地の地質を紹介する番組に出演したり、腰の筋トレに役立つ「あえて歩きにくい靴」を運動靴メーカーと共同開発したり。「さんそうけん」の名前を知らないあなたの身近にも、すでに研究成果が生かされている…そんな研究所です。