一酸化二窒素という悪魔:新たなる難題

アンモニア混焼とは、火力発電特に石炭火力で燃料の石炭にアンモニアを混ぜて燃やすことをいう。そう、アンモニアは燃えるのである。この方式を用いると燃焼によって発生する二酸化炭素の量を劇的に減らすことができるとされている。

一酸化二窒素(笑気ガス)の分子モデルPeterHermesFurian/iStock

燃焼にともなって大気汚染の大きな要因になる窒素酸化物(NOx:ノックス)が発生するが、それに加えて一酸化二窒素が発生する。

一酸化二窒素は大きな温暖化効果を持つガスであり、それは二酸化炭素の300倍にもなる。工業化以前(1750年)の大気中の一酸化二窒素の濃度は約270ppbと見積もられているが、2022年の測定値(世界平均)は335.8ppb(0.3358ppm)であった。

2021年から2022年の一酸化二窒素の増加は1.4ppb(0.0014ppm)だった。一方の二酸化炭素の増加は2.2ppmであった。

アンモニア混焼が世界的に大規模に進めば、一酸化二窒素は今まで以上の速さで増加していく可能性がある。

つまり、二酸化炭素を潰しても、それよりもはるかに強力な温暖化ガスである一酸化二窒素がヒョッコリと顔をもたげてくるという、なんともアンハッピーな構図が浮かび上がってくる。まるでモグラ叩きのごとき新たなる難題の出現である。

脱炭素至上主義の死角

一酸化二窒素は農業からも発生している。世界規模で広範に農地に散布されてきた窒素肥料からも発生している。人為的活動から大気中に放出されるもっとも大きな割合を占めている。

©️国立環境研究所

以上のことから私たちは2つの教訓を得ることができる。

問題は脱炭素ではなく温暖化防止のはずである。ゼロカーボンやカーボンニュートラルのように〝ゼロカーボン(ゼロ炭素)〟至上主義はそれ自体に執着すればするほど墓穴を掘るというパラドックスに陥っている。 太陽光パネルやバッテリーEVがまさにそうであるように、最初は良いが、大量生産され世の中に流布してくると、それまでは隠れていたより大きな問題が頭をもたげてくる。

日本政府は今やGX至上主義、しかもGX=脱炭素という蒙昧なプリンシプルに多くの専門家や学者などを巻き込んで邁進しようとしているが、これらの教訓を今一度良く噛み締めたほうが良いだろう。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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