全体を通じて特徴的なのは、

国内化石エネルギー資源の生産促進 補助金による再エネ支援に懐疑的 化石燃料生産及び関連インフラに対する規制の緩和・撤廃 原子力の役割を重視 米国のエネルギー・技術輸出による「エネルギードミナンス」 国際環境レジーム(パリ協定)や国際機関(IEA、IRENA等)への懐疑

である。

トランプ第二次政権が誕生すれば、第一次政権と同様、行政命令でできることを行うことになろう。Day1でやる可能性があるのはパリ協定からの離脱、LNG輸出認可凍結の解除等である。

クリーンエネルギーへの3700億ドルの補助を内容とするインフレ抑制法(IRA)はバイデン政権のエネルギー転換政策の中核だが、トランプ第二次政権の下で白紙に戻されるとは考えにくい。そのためには共和党が上下両院で絶対多数をとる必要があるし、風力を中心にIRAから受益している共和党州も多いからだ。トランプ第一次政権においても再エネに対する税額控除は続けられた。ただし原子力技術に対する支援を拡大する等、ポートフォリオの見直しはあるかもしれない。

バイデン政権の真逆を行くトランプ第二次政権であるだけに、日本への影響も大きい。第二次トランプ政権は米国内のエネルギー生産を促進し、「エネルギードミナンス」のため、同盟国への輸出拡大を図ることは確実である。

日本との間で第一次トランプ政権時代の日米戦略エネルギーパートナーシップ(JUSEP)的なものが生まれる可能性もあり、LNG供給、CCUS、原子力技術開発、バッテリー、重要鉱物等が協力分野となろう。同盟国である米国とのエネルギー関係の強化は日本のエネルギー安全保障上は概ねプラスの影響が期待される。

これまで日本はG7でバイデン政権の米国と欧州から脱化石燃料をプッシュされていたが、第二次トランプ政権の下では脱炭素に冷淡な米国と脱炭素に前のめりな欧州の間で日本は「泳ぎやすい」立ち位置となろう。

先述のように第二次トランプ政権はDay1でパリ協定から離脱することが確実だが、更にパリ協定の上位にある気候変動枠組み条約自体からも離脱する可能性がある。米国の離脱、気候資金拠出の拒否、更にはトランプ政権誕生による国際秩序、貿易秩序への衝撃により、タテマエはともかく温暖化防止に向けた国際的モメンタムが低下すること可能性が高く、1.5℃目標の死はいよいよ誰の目にも明らかになるだろう。

「日本も米国と同様、パリ協定を離脱すべき」との議論があるが、賢明な選択とは思われない。第一次トランプ政権の際も米国に続いてパリ協定を離脱する国はなかった。パリ協定から離脱すれば「温暖化防止への国際的取り組みに後ろ向き」との烙印を押されることになり、日本の国際的評判へのダメージが大きすぎる。またいずれは民主党が政権復帰するだろうが、その時にのこのことパリ協定に復帰するのでは自主性も何もない。

もともとパリ協定は京都議定書と異なり、ボランタリーな枠組みであり、46%目標、2050年カーボンニュートラル目標が未達であっても罰則などはない。アジア太平洋地域の主要貿易パートナーである米国が温暖化対策コストを負わずに安価なエネルギーを享受する中で、日本が脱炭素のために、ただでさえ高いエネルギーコストを引き上げれば日本の製造業と雇用の海外流出を招くだろう。

最大の同盟国である米国が長期的な取り組みを要するエネルギー温暖化政策分野で政権交代のたびに左右に大きく振れるのは困ったことだ。だからこそ右往左往せず、NDC (Nationally Determined Contribution)という言葉が示すとおり、国益や経済成長を毀損せず、日本の国情を踏まえた現実的な脱炭素化を追求することが重要である。

トランプ第二次政権の誕生は日本に国益と脱炭素化のバランスを改めて考える機会を与えるかもしれない。

 

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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