議員個人の違法寄附が立件され起訴されていれば、違法寄附は全額没収され(政治資金規正法28条の2)、議員の手元に「裏金」が残ることはなかったはずだ。

ところが、検察は、所属議員の資金管理団体・政党支部の収支報告書の虚偽記入だけを立件し、松本氏を起訴し、安倍派がそれと平仄を合わせた収支報告書の訂正を行って、「捜査の終結」とされてしまったために、ほとんどの議員は処罰を免れ、しかも、納税すらせず、「単なる不記載」などと開き直る態度に終始しているのである。

当然のことだが、国民からは激しい怒りが沸き上がり、折しも、昨年秋のインボイス制度導入で、耐え難い負担をさせられ、しかも、確定申告にも苦しめられている時期であったこともあって、「自民党裏金議員」に対する怒りは炎上・爆発した。それらの「国民の怒り」を受けて、野党が国会で、裏金議員に対する「政治家個人に対する違法寄附」での処罰や所得税の課税について質問しても、岸田文雄首相は、「検察捜査の結果を踏まえて適切に判断するものと承知している」との答弁を繰り返してきた。

岸田首相自らが、安倍派幹部の聴取を行うという「異常な事態」となり、この混乱が収まる気配はない。根本的な問題は、検察が、個人あての寄附として捜査処分しなかったことが、「強力なディフェンス」となって、「裏金議員」の処罰・納税を免れさせてきたからなのである(【「裏金議員・納税拒否」、「岸田首相・開き直り」は、「検察の捜査処分の誤り」が根本原因!】)。

丸川議員も、「中抜き」の方法でパーティー券売上のノルマ超過分を得た「裏金議員」の一人だ。

しかし、他の議員とは異なり、その裏金が「政治家個人宛の寄附」であったことについての、弁解しようのない「決定的な根拠」がある。

一つは、「派閥からノルマ超過分は持ってこなくていいと言われた。資金は(自分の)口座で管理していた」と記者に説明していることだ。(「丸川珠代元五輪相、不記載822万円 『超過分は口座で管理』」毎日新聞2024/2/1 )この説明は、資金が個人に帰属するものと認識していたことを認めているに等しい。

そして、もう一つは、丸川氏に供与した資金について、清和政策研究会側が、今年1月31日に、同丸川が代表である「都参議院選挙区第4支部」への寄附であった旨の訂正記載を行っているのに、一方の丸川議員の側は、上記寄附を受けた旨の同支部の政治資金収支報告書の訂正を行っていないことである。

「清和政策研究会」の2020年分~2022年分の各収支報告書は、今年1月31日付で一斉に訂正され、そこでは被告発人丸川珠代が支部長である「都参議院選挙区第4支部」にそれぞれ寄附していた(2020年:100万円、2021年;195万円、2022年:217万円)と訂正されている。

ところが、「都参議院選挙区第4支部」の側では、2020年分~2022年分の各収支報告書で、「清和政策研究会」からの寄附を受領したとの訂正を行なっていない。

それは、その資金供与が、「都参議院選挙区第4支部」に対して行われたものではなく、丸川氏個人宛の寄附であり、同支部宛の寄附として記載することは虚偽記入に当たることを、丸川氏自身が認識しているからとしか考えられない。

ノルマ超過分を所属議員に供与するに際して、清和政策研究会側から「政策活動費なので収支報告書に記載しないでよい」と説明されていたことを、宮澤博行衆議院議員が防衛副大臣辞任の際の記者会見で明らかにしている。そのほか、自民党の調査に対する回答の中にもその旨の説明がある。

このような説明は、所属議員へのノルマ超過分の供与は、収入について収支報告書への記載が義務づけられている資金管理団体・政党支部・国会議員関係団体等に対する寄附ではなく、収支報告書への記載義務がない議員本人に対する寄附であることの根拠だと言える。

上脇教授は、今回の「裏金問題」の発端となる自民党派閥政治資金パーティーをめぐる政治資金規正法違反の告発を行った人であり、その後も、マスコミ報道で明らかになった事実等について告発を行ってきた。

安倍派からの所属議員への「裏金」が、政治家個人宛の違法寄附であることについて、上脇教授と私は同様の問題意識を持ち、検察の捜査・処分に疑問をもってきた。そこで、上脇教授と私とで、政治家個人宛の違法寄附としての告発の対象とすべき議員について検討を重ねた末、前記の2つの「決定的根拠」がある丸川氏について、起訴されることへの「確信」をもって、違法寄附を受けた事実で丸川氏を、その違法寄附を行った事実で清和政策研究会側の松本氏を告発したのである。