アメリカではそもそも2018年の国防総省の中国の軍事力についての報告でも一帯一路の軍事戦略的な危険を指摘していた。一帯一路は「国家集中的な政経システムを国際拡大する覇権志向の構想であり、他国に中国への債務依存を通じ軍事面での基地使用をも狙う」としてスリランカのハンバントタ港の例を挙げていた。

いまバイデン政権の国防次官補を務める中国問題専門のイーライ・ラトナー氏も2018年の議会証言で「中国が自国の独裁態勢を対外的に拡大し、アメリカ主導の国際安全保障態勢を崩すことが一帯一路の真の意図だ」と述べていた。だが中国側のその狙いは成功しなかった、というのがいまのアメリカでの一致した見解だといえる。

この一帯一路失敗という見解は、まずいまの中国の経済自体が衰退し、弱体化したことでも確実に証明されるといえよう。この構想はそもそも中国自体の経済を国際的な場で成長させ、その影響力をグローバルに広げることを意図していた。だが構想のスタートから10年の現在、中国経済はかつてない縮小を明示したのだ。

中国から融資を受けた一帯一路参加の諸国の経済も顕著な成長や好調を示したところは皆無に近い。要するにこの巨大な国際インフラ建設計画は国際的な経済活力を生まなかったのだ。

この構想の失敗は、習近平主席が今後の一帯一路について「小さく美しく」と根本方針の変更を明言したことでも裏付けられる。これまでの構想は「大きく醜く」だったことの自認だとも解釈できる言明なのである。日本もこの一帯一路の構想に参加せず、本当によかった。その不参加の断を下した安倍晋三首相の判断は改めて賞賛されるべきだろう。

古森 義久(Komori Yoshihisa) 1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。

編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年12月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

【関連記事】
「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
大人の発達障害検査をしに行った時の話
反原発国はオーストリアに続け?
SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
強迫的に縁起をかついではいませんか?