※本記事は2021年の記事の再掲です。
着々と進む人類の火星進出計画だが、ある研究者によれば我々の“引っ越し先”として火星よりも現実的で安全な選択肢があるという。それは準惑星セレス(ケレス)の衛星軌道上のスペースコロニーであるというのだ。
■巨大なスペースコロニー「メガサテライト」とは
回復が不可能なほどの環境破壊や激甚自然災害、あるいは小惑星の直撃など、近い未来に待ち受ける“人類滅亡シナリオ”を無視することが許されない状況にあるが、その抜本的な解決策となるのが人類の移住だ。
人類の“引っ越し先”として第一候補に挙げられているのが火星で、すでにNASAとイーロン・マスク氏率いるスペースX社によって人類の火星進出計画が進められているのはご存じの通りだ。
しかしこの人類の火星進出に待ったをかけている専門家がいる。我々人類は火星のような惑星に移住先を求めるのではなく、惑星の衛星軌道上に建設したスペースコロニーに住むべきであるというのだ。そのほうが人間にとって安心・安全な暮らしが送れるということだ。
2021年1月に研究論文アーカイブ「arXiv」に公開されたフィンランドの宇宙科学者、ペッカ・ヤンフネン氏の研究では、準惑星セレスの周囲に巨大なスペースコロニー「メガサテライト(megasatellite)」を建設して人類が居住する計画が説明されている。ヤンフネン氏によればなんと15年以内にもこの計画を実行に移せるというのである。
セレスは火星と木星の間の小惑星帯に位置する準惑星で、直径は945kmと太陽系の中で33番目に大きい天体だ。このセレスの地表に移り住むのではなく、セレスの衛星軌道上に巨大なメガサテライトを建設して移り住むのが賢明であるという。
メガサテライトはセレスの周囲を恒久的に周回するシリンダー状の巨大建築物で、全長は10㎞、シリンダーの半径は1㎞で66秒に1度自転することで、ほぼ地球と同じ1Gの重力が働く環境となる。1つのメガサテライトで5万7000人が居住可能であるということだ。
しかしなぜセレスなのか。火星の衛星軌道上ではだめなのか。
ヤンフネン氏によれば、地球からの宇宙旅行としてセレスは火星と所要期間はほどんど同じであると前置きしたうえで、セレスは窒素が豊富で軌道上のメガサテライトの大気を発達させるのに好都合であるという。ちなみに地球の大気はおよそ79%が窒素分子である。
火星の半径のおよそ13分1のセレスは、軌道エレベータの設置も比較的容易で、セレスの資源や原材料を軌道エレベータで直接メガサテライトに運び込むことができるのだ。
そして火星に住むことのリスクもこのセレス周囲のメガサテライトでは解消されている。それは地球の3分1程度の低重力の環境に住むことの健康リスクだ。
「私の懸念は、火星の重力が弱すぎるために、火星の居住地にいる子どもたちが(筋肉と骨の点で)健康な大人に成長しないことです。したがって私は(地球のような)重力を提供するだけでなく、相互接続された世界も提供する代替案を探しました」とヤンフネン氏は科学系メディア「Live Science」の取材で語っている。