「自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)」は、対人関係への強い抵抗感や物事への偏ったこだわりを特徴とする発達障害の一つです。

その特性から通常の社会生活を営むことが難しく、しばしば福祉的なサポートを必要とします。

その一方で、自閉症の人々はときに、普通ではありえない驚くべき能力を発揮することがあります。

例えば、1度読んだだけで本を丸ごと暗記してしまう難しい計算を瞬時に暗算できる「西暦〇〇年の○月○日は何曜日?」と聞くとすぐに「○曜日」と答えられる床に散らばったマッチの本数を瞬時に正確に答えられる、などこれらの信じがたい能力が実際に確認されているのです。

どうしてそんなことが可能なのでしょうか?

専門家たちは長年の研究により、あるものがその答えの鍵を握っていると考えています。

それが脳内に見られる「神経ノイズ(neural noise)」です。

脳内で生じる「神経ノイズ」とは?

神経ノイズとは?
神経ノイズとは? / Credit: canva

神経ノイズとは、脳の神経細胞(ニューロン)の活動において生じるランダムで予測不能な電気信号のことを指します。

私たちの脳内では、何かを感じたり考えたりするたびに電気信号がネットワーク上をすばやく飛び交っていますが、神経ノイズはこうした電気信号とは違い、その背景でランダムに生じている雑音のようなものです。

神経細胞は電気信号を使って情報を処理・伝達していますが、このプロセスの中では、さまざまな要因によりノイズが発生しています。

例えば、化学物質の偶発的な放出や、外部環境からの音や光といった不規則な刺激などです。

ノイズと聞くと、何か正常な脳活動に支障をきたす「ジャマ者」のようにも思えますが、実はこれまでの研究で、適度なレベルの神経ノイズは脳の柔軟性を高めたり、新しい情報の学習や創造的な思考を促進することがわかっています。

自閉症では脳の神経ノイズが多い?

そして注目すべき点として、自閉症の人ほど、特定の脳領域や神経回路における神経ノイズが普通の人に比べて非常に高いレベルで発生していることが過去の研究で示されているのです。

これは感覚情報の処理や社会的コミュニケーションに影響を与えている可能性があります。

例えば、視覚や聴覚に関わる脳領域での神経ノイズの増加は、自閉症の人々がある特定の刺激に敏感になったり、過剰に反応してしまう要因になっていると考えられます。

それから自閉症における神経ノイズは、普通の人々のノイズに比べて一貫性が低い、つまりはより予測不能な特徴を兼ね備えているのです。

こうした特性も、自閉症の人が対人関係や環境の変化に適応するのを困難にさせている一因と指摘されています。

自閉症は「神経ノイズ」が多い
自閉症は「神経ノイズ」が多い / Credit: canva

神経ノイズと認知機能との間には複雑な関係があり、自閉症の人々ではこのバランスが普通の人々と明らかに異なっています。

しかし、その神経ノイズの多さや予測不能性こそが、自閉症の驚異的な能力を生み出す鍵になっているのかもしれません。

その仮説を支持する面白い研究が2023年に行われました。

それを次に見てみましょう。