「『産経っ!事件を追っかけてる。頼む!』。駅員に向かってそう叫ぶと、返事を聞く前にそこを“突破”していた」

そして、容疑者逮捕の瞬間を撮影した産経新聞の小野カメラマン。彼もまた最前線で働く若手であり、身長が3センチ足りずに志望していた警官を断念した過去を持つ。

逮捕当日未明から動き出す警官とカーチェイスを繰り広げ、捜査官を追いかけるために咄嗟に電車を降りた時には閉じるドアに傘を挟まれ、捜査官に取材を懇願しても「駄目だ。冗談じゃない。こっちがクビになる」と拒絶される。

それでも捜査官に追いすがる小野は、切符を買う時間がないと判断すると、警察手帳ならぬ報道腕章を駅員に示して有無を言わさずに改札を走り抜けた。警察も必死だが伝える側のメディアの執念も凄まじく、読み応えある大迫力の追走劇である。

桐島聡の顔は指名手配のポスターで千回も二千回も眺めていたはずなのに、関わっていた事件について評者は何も知らなかった。恥ずかしながら、本書を通して三菱重工爆破事件の経緯や実態を初めて知った。

評者の勉強不足と言えばそれまでなのだが、事件以降に生まれた世代として、学校教育で戦後の極左テロ事件を習った記憶はない。何度も何度も憲法前文や9条については習ったのにも関わらず、憲法の精神を踏みにじるような数々の非道な行為については全く言及がないのが日本の歴史教育の実態でもある。

風化させるべきではないのは戦争の記憶だけではなく、平和主義を高らかに謳った者たちによる平和主義への重大な挑戦と忘れ去られた被害者への哀悼なのである。

※3月21日、東京地方検察庁は容疑者死亡のため、桐島を不起訴処分とした。

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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