欧州社会は“アブラハム文化”だ。アブラハムは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の信仰の祖だ。イスラム教では3月11日から5行の一つ「ラマダン」(断食の月)が始まっている。キリスト教では明日31日は復活祭(イースター)だ。十字架で亡くなったイエスが3日後に復活したことを祝うキリスト教最大の祝日だ(東方教会は5月5日が復活祭)。
今年はイスラエルとイスラム過激派テロ組織ハマスの間で戦闘が続き、ロシアとウクライナの間の戦争は3年目に入った。世界は激動の時を迎えている。ユダヤ教徒、イスラム教徒、そしてキリスト者にとっても試練の時だ。
ところで、今月20日は「世界幸福デー」だった。それに合わせて慣例の国連「年次世界幸福度報告書」(調査期間2021年~23年、143カ国を対象)が発表されたばかりだ。同報告書を担当した専門家の1人は「西側諸国では過去、若者が最も満足しており、主観的幸福度は成人初期に減少し、中年以降に再び大幅に増加するというものだったが、今回発表された報告書は、この『U字カーブ』が当てはまらず、場合によっては若者の幸福度が低下している」と指摘し、「若者がミッドライフ・クライシス(中年の危機)のような状況を経験している」と述べていた。
その原因について、ソーシャルメディア利用の増加、所得格差、住宅危機、戦争や気候変動への懸念が若者の幸福度に影響を与えている可能性があるというのだ。未来に対する不安がソーシャルネットワークで増幅され、若者が希望を失っていく。
ローマ・カトリック教会の前教皇ベネディクト16世は2011年、「若者たちの間にニヒリズムが広がっている」と指摘した。欧州社会では無神論と有神論の世界観の対立、不可知論の台頭の時代は過ぎ、全てに価値を見いだせないニヒリズムが若者たちを捉えていくという警鐘だ。簡単にいえば、価値喪失の社会が生まれてくるというのだ(「“ニヒリズム”の台頭」2011年11月9日参考)。
人は価値ある目標、言動を追及する。そこに価値があると判断すれば、少々の困難も乗り越えていこうとする意欲、闘争心が湧いてくるものだ。逆に、価値がないと分かれば、それに挑戦する力が湧いてこない、無気力状態に陥る。同16世によると、「今後、如何なる言動、目標、思想にも価値を感じなくなった無気力の若者たちが生まれてくる」というのだ。