本書第6章「普天間と辺野古――二つの仮説」は、「普天間の返還・移転に関しては、日米の二国間協議だけでなく、国連軍の他の参加国との協議も必要だ」、「しかし、普天間移設の問題を論じる際に、メディア等でこの点が議論されることはない」と指摘した上で、かつて「鳩山政権下で生じた普天間移設、とりわけ国外移設政策が頓挫した原因は、根本的には普天間が国連軍基地の地位にあることにある」と総括している。
公正を期すため書けば、異論を覚えた箇所もある。本書は、「台湾海峡で紛争が生じた場合に、米軍が戦闘作戦行動をとろうとし、事前協議において日本側がそれを拒否するという事態」を「現実的ではない」とし、「日本がこの場合の事前協議において同意しないという事態は想定しにくい」と切り捨てているが、それでは重要な論点が雲散霧消してしまう。
なお、この論点については拙著最新刊『台湾有事の衝撃 そのとき日本の「戦後」が終わる』(秀和システム)で、一章を割いて詳論したので、拙著に委ねる。いずれにせよ、在日米軍基地が持つ「裏」の顔に光を当てた本書の価値は、いささかも揺るがない。
最後に、本書終章「二つの顔」を借りよう。
それでもまだ米軍については国民やメディアの側に一定のリテラシーがあるからよいようなものだが、国連軍についてはそれすらない。監視の目は届いていない。そもそも、日本は個別の参加国に対して撤退交渉を行う立場にすらない。彼らの駐留は国連安保理決議に基づくものだからだ。これは日本の国家主権に干渉しうる重大な問題をはらんでいる。
著者は川名晋史教授(東京工業大学リベラルアーツ研究教育院)。聞けば、小泉悠准教授(東京大学)とかつて国立国会図書館職員として、ともに働いた同僚らしい。ご両人とも、ますますの活躍が期待される。
基地問題に関する立場を問わず、本書を強く推す。
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提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
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