Netflix、hulu、アマゾンプライム・ビデオ、ディズニー+、U-NEXT、GyaO!(3月末にサービス終了)など、各社が熾烈なシェア争いを展開しているサブスクリプション型の動画配信サービス。それぞれが数万本規模の視聴可能な作品数を揃えているが、その膨大な作品の中には「誰が観てるんだろう」と言いたくなるものが無数にある。運営側もそこまで視聴を期待していないというか、数合わせとしか思ってないのかもしれない。

では、このようなカサ増し作品は、どこの誰が供給し、ちゃんとビジネスになっているのだろうか。サブスク配信サービスの事情通に話をうかがいつつ、検索してもなかなか出てこない「沈殿作品」をレビューしてみた。

日本だけでも数十社が参入し、激しく競い合っているサブスク方式の動画配信サービス。多くは大ヒットしたメジャーな映画作品やオリジナル作品などがウリとなっているが、もちろん「それ以外」の作品もたくさんラインナップされている。

アマゾンプライムで検索してみると、上位には最新作や往年のヒット映画、評価の高い名作映画などがズラリと並ぶ。そこからずっと掘り下げていくと、どこかで見たことがありそうで知らないアクション映画や、まったく怖くなさそうなホラー映画、チープなSF作品が増えていく。吹替版などは当然のように用意されていない。

さらに掘ると、古い白黒映画や謎のドキュメント映画が湧き出し、サムネイル画像も映画のタイトルが普通のフォントで書かれただけのような荒々しいものばかりになってくる。

こうした配信サービスの底に澱のように沈んでいる「沈殿映画」は、誰のために用意されているのか。映画業界に詳しいコラムニストのジャンクハンター吉田氏はこう話す。

「映画業界では『メジャー』と呼ばれる大手の製作・配給会社と、それ以外の独立系会社に大別できます。独立系作品の中には、劇場公開を前提としないものも多く、粗製乱造されたZ級映画もたくさんあります。そんな作品の配信権を買い付けたバイヤー会社により、動画配信サービスに大量に供給されているんです」

そもそもヒットを狙っているわけでもなく、評価されたいわけでもない。配信のスキマに滑り込むためだけに作られた映画がたくさんあるのだ。

「かつて、ビデオレンタルのバブルがあり、どんな映画でもソフト化すれば売れるという時期がありました。その頃は日本でも中小の買い付け会社が世界中から映画をかき集め、ビデオソフト化していたんです。また、Vシネマのような劇場公開をせずにビデオだけで流通するような作品も作られるようになっていきました」

ウリとなる要素がひとつでもあれば売れるため、有名俳優がデビュー時に端役で出ていた作品や、ヒット作を真似たパチモノ作品など、サイテー映画が大量に出回った。

「こうした動きは、DVDが出始めた頃にも繰り返されました。どんな映画でもDVD化すればセルで売れるというブームが到来し、誰も知らないような映画でもソフト化されたんです。そして、配信ブームが到来すると、このような作品がサブスクサービスにどんどん流入するようになったんです」

レンタル店やセルショップは物理的に作品が陳列できる上限があるが、配信サービスにはない。在庫リスクがゼロということは、売れる、売れないなどのマーケティング的な判断が不要で、とりあえず並べておくことができる。

これが、誰も観ない映画が誰も観ない状態で沈殿している理由のひとつだ。とはいえ、実際に収益になっているのだろうか。

「ほとんどの動画配信サービスは1本鑑賞されたらいくら、という精算方式になっています。なので、観られなければ儲からない。でも、配給会社としてはただ権利を持っていてもしょうがないので、数円でも利益があるなら配信サービスに置いてもらうしかないんです」

観てもらうためには検索順位を上げてもらうなど、プラットフォーマー側からのプッシュが欠かせない。その時に効いてくるのが「独占」という肩書きだという。

「差別化のため、自社のサービスだけで配信できる『独占作』が求められています。最近はコンテンツが増えすぎてしまい、映画館で公開もされず、配信もされていない塩漬け状態の作品が山ほどある。これが『独占作』として配信されるケースが増えています。知り合いのプロデューサーに聞いたところ、公開未定のまま製作したインディーズ映画があり、これをある配信サービスに『独占配信』で働きかけたところ、通常よりも良い条件で応じてくれたそうです」

結果的に、さまざまな映画が簡単に観られるようになった。しかし、それらが沈殿してしまって話題にもならないのは、かつてのような「映画マニア」が激減してしまったことにあると、吉田氏は指摘する。

「かつてはB級映画を取り上げる映画雑誌も多く、サークル活動的にマイナーな映画を愛でるマニアもたくさんいました。しかし、そんな世代は50代を過ぎて元気もなくなってしまったし、若い世代は流行のコンテンツを見るのに精一杯で、古くてつまらない映画を楽しむような余裕はない。作品数が爆発的に増えてしまったので、それを掘る人も、分類して解説する人も少ない。ゴミ映画が本当の意味でのゴミとなってしまっているんです」

それならば、ここでわずかでもゴミ拾いをしてみたい。最後に、アマゾンプライムで観ることができる沈殿作品をいくつか紹介してみよう。