田に直接種を蒔く「直播」も実施

もうひとつ、Rizeが取り組んでいる農法がある。英語では「Direct Seeded Rice」と呼ばれるもので、日本語では「直播(ちょくは・ちょくはん)米」となる。

Image Credits:Rize

稲作と言えば田植えの光景を想像する人が多いだろうが、田植えとは苗床で育てたイネの苗を田に移植する方法だ。直播は、水を張っていない乾いた田に直接種を蒔き、それをある程度育ててから水を張るという流れになる。

中干しと直播には、「できるだけ水を使わない」という共通点がある。要するに、アジアの一部地域で伝統的に行われている農法をアジア全体に普及させようというのがRizeのミッションなのだ。

降水量の少ない地域の希望になるか

Rizeの主張によると、中干しを実施するだけでも農業用水の使用を3割削減でき、さらにワンシーズンごとに1ヘクタールあたり1.4トンのメタンの排出を削減するという。同社はすでに、ベトナムやインドネシアでメタン削減農法普及に取り組んでいる。

農業用水を削減できる点にも注目が必要だ。ひとくちに東南アジア諸国と言っても、地域によって降水量が大きく異なる。たとえば、インドネシアのジャワ島西部はケッペン気候区分の熱帯雨林気候だが、東部は熱帯サバナ気候。バリ島、ロンボク島…と東へ行くほど降水量が少なくなる。ダム建設も行われない地域では、農業用水の確保も容易ではない。

中干しと直播を用いた農法は、そうした地域に光を与えるかもしれない。

Image Credits:Rize

Rizeは2024年5月にシリーズAラウンドで総額1,400万ドルの資金調達に成功したばかり。来年2025年にはベトナムとインドネシア以外の国でのプロジェクトも開始するとしている。CEOのSawhney氏はこの資金調達の際、南・東南アジアの小規模農家に正確な情報が届いていないこと、農業コストの増加、気候変動問題についても言及。自社の技術で農家の経済的な安定を目指すという。

温室効果ガスの削減、食料増産、小規模農家支援を同時に実現しようという同社の取り組みは、アジアの稲作の在り方に一石を投じるものでもある。

(文・澤田 真一)