今夏(2024年7月26日~8月11日)パリで開催されるオリンピックやFIFAワールドカップ(W杯)は、各国の名だたる選手たちが参加する世界規模のイベントだ。このような催しは近年「メガイベント」または「メガプロジェクト」と呼ばれ、人々に歓喜や感動を届けるだけでなく、イベントそのものの社会的価値が「遺産」になると考えられている。
FIFAはこの「遺産」をキーワードとして、2023年に開催された女子W杯オーストラリア&ニュージーランド大会から、女子サッカーを含めた大会自体を遺産とする取り組み「レガシープログラム」をスタートさせた。ここでは、メガイベントであるW杯が社会に生み出す遺産としての価値について掘り下げていく。
W杯がもたらす社会的価値と懸念点
「W杯」と聞いて頭に浮かんでくるのは、開催地となったホスト国の巨大なスタジアムや世界中から訪れるユニフォーム姿のサッカーファン、そして会場を盛り上げる様々な店とそこに集う人たち。筆者がパッと想像しただけでも、イベント関連施設を含むインフラ整備や観光サービスなど多方面との繋がりが見えてくる。
周囲の環境を巻き込んで開催される大規模なイベントを研究するデンマーク出身の地理学者ベント・フライフヨルグ氏は、メガイベントの開催によってもたらされる効果に価値を見出した。それらは「The Four Sublimes(4つの崇高)」と呼ばれ、4分野それぞれに異なる利点があるという。では、W杯が各分野に及ぼす影響とはどんなものだろう。
- 技術:サッカースタジアムなどの建設や改修時に導入される最先端技術は、開催国のエンジニアに刺激を与え技術力を向上させるとともに、歴史的建造物の誕生に関われたという喜びと誇りも与える。
- 経済:開催国の中でも特に会場となる地域は、観光業収入の視点から町のイメージアップやサービス業の活性化が期待され、都心よりも地方であるほどその効果は大きい。また莫大な予算が投入されるため様々な業種で雇用を生み出し、地域経済に潤いを与える。
- 政治:国がメガイベントを率いることで世界メディアから注目が集まり政治力を示すことができる。また人々の関心度が高い場所で名を馳せることにより、政治家の活動にプラス効果をもたらす。
- 芸術:スタジアムなどイベントを象徴する大型建築物は、優れたデザイナーによって非常に美しいデザインで構築され、エンジニアや利用者はもとより批評家にも喜びを与える。
このように、メガイベントを開催することで発生する分野ごとの利点が遺産としてホスト国の歴史に大きな影響を及ぼし、後世まで刻まれていくのだ。
一方、これらの遺産をマイナスに捉える考え方も存在する。例えば観光促進を越えてオーバーツーリズム問題へと発展することへの懸念や、巨費を投じた建築物がイベント後は活用されなくなってしまういわゆる「ホワイト・エレファント(無用の長物)」を指摘する声も多い。