男の隠れ家の神出鬼没な編集者・田村巴は年がら年中〝休肝日〟がない生粋のお酒好き。そんなほろ酔い編集が美味い酒を求めて今宵もぶらりと旅に出る──。
突然の呼び出しにも優しく応えてくれる先輩の胸を借りて、人生初の“蕎麦屋呑み”を江戸三大蕎麦の名店で敢行しました!
ほろ酔い編集・田村巴のちょっと一杯やらないか? 第3杯
12月某日、あと幾つか寝たらお正月という日に、荒川区三ノ輪で先輩ライターの阿部文枝さんと待ち合わせ。
阿部さんは男の隠れ家の創刊期から執筆する重鎮、生き字引パイセン。そんな大先輩を師走の繁忙期に呼び出したのは、他でもないアテクシ。
「もういい大人なんだし、そろそろ蕎麦屋で一献、粋にキメたい。目指せ、渋めの45歳!」
アホな後輩の自分磨きに巻き込まれ、いい迷惑である。なのに、
「砂場総本家さんは江戸時代から続く老舗の蕎麦屋。細打ちで喉ごしのよい蕎麦と灘の酒でやりましょう!」とご快諾。
阿部さんは有名食雑誌など多くの媒体で活躍する、蕎麦に精通したお方。
挨拶もそこそこにまずは蕎麦前の定番「板わさ」と「焼きのり」を注文、酒は「菊正宗 上撰」をお燗で。辛口のすっきりした味わいに、お燗派だと話す阿部さんもニッコリ。
「ここの焼きのりは箱の下に小さな炭が入っていて、湿気らずパリパリ食感を愉しめるんです」
板わさや焼きのりは江戸時代からある種物蕎麦の具材である。また砂場総本家では日本酒の銘柄は「菊正宗」が主。たまに「剣菱」も並ぶが“灘”の酒しか置かない。
店主の長岡孝嗣さんは、「砂場は大阪で創業して江戸にきました。当時は上方の酒が一流。良い酒を出したい、という理由で“灘の酒”を提供するのが砂場のルールなんです」とのこと。
江戸時代から掟のように守られてきた伝統。なるほどと頷きつつ「天ちらし」と「天ぬき」を注文。合わせるのは米の旨みが感じられる「菊正宗 生一本」を冷やで。
阿部さん曰く、蕎麦の入っていない“ぬき”にはチェイサーの役割もあるのかも。確かに温かくて旨味の詰まった出汁は胃に嬉しい。
江戸落語でも語られる“蕎麦屋の二階”談義に華を咲かせ、最後に「菊正宗 生貯蔵酒」と「もりそば」を手繰って〆。
江戸の昔から続く老舗で念願の蕎麦屋呑み。“粋”がなんたるかを、そこはかとなく学んだ昼下がりでした。