兵器開発とはアイデア勝負の側面もあり、これまでにもさまざまな奇想天外な兵器が考案されてきたが、ナチスや日本軍も仰天するのが冷戦時代の米軍である。1960年には地球の自転を止める計画が真剣に検討されていたのだ。
■ロケットエンジン1000機で地球の自転を止める!?
米ソ冷戦時代のアメリカ政府の最もシリアスな懸念の1つが、ソ連によるアメリカ本土への先制核攻撃であった。
アメリカ本土の各所にある主要なミサイル発射基地の正確な位置はほぼソ連側に知られており、当然、先制攻撃ではこれらの基地が同時に狙われることになる。もしこれらの基地が同時に被害を受けた場合、報復攻撃の能力が著しく失われることが政府内で大きな問題となったのだ。
そこで1960年、アメリカの軍事分析家たちは地球の自転を止めてロシアの核攻撃からアメリカを守るという驚くべき計画を立案した。
「レトロ計画(Project Retro)」と名づけられたその奇想天外な計画案は、ソ連の先制核攻撃を検知した際にアメリカ中の大出力ロケットエンジンを1000機同時に稼動させて地球の自転を一瞬だけ停止させるという驚愕のプランであった。
自転を一瞬停止させることができれば、ソ連から放たれたミサイルの着弾地点が狂い、各ミサイル基地の攻撃能力が温存されるのである。
しかしこの計画にはいくつかの致命的な欠陥があることに米国防総省(ペンタゴン)のダニエル・エルズバーグ氏はすぐに気づいた。
地球の自転速度は赤道上では時速約1674kmにもなっており、もし一瞬でも止まれば地表にあるあらゆるものが物凄い速度で“ズレる”ことになる。海岸沿いの都市は巨大な津波によって壊滅し、地表は捲り上がるほどの地滑りが起きて大災害となる。皮肉にも先制核攻撃の被害とは比べものにならないカタストロフィーが起きるのだ。
そしてそもそもロケットエンジン1000機で地球の自転を止められるはずはなく、ある物理学者の試算では地球の自転を止めるには1000兆基のロケットエンジンが必要であるということだ。
発想は面白いかもしれないが、この「レトロ計画」はまったくのナンセンスであり、たとえ一時の間であったにせよ政府と米軍で検討されていたというのはやはり当時の冷戦下の軍事的緊張は計り知れないものがあったということだろうか。