入管法改正で永住外国人の在住資格の取消事由明確化、故意の公租公課不払いが追加
話の前提として、【出入国管理及び難民認定法及び外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律の一部を改正する法律案:参議院】に触れます。
現行の入管法22条2項に「公租公課の支払等」を義務に加え、22条の4に加える形で「故意に公租公課の支払をしないこと」という取消し事由が加わり、それ以外にも一定の罪を犯して拘禁刑に処せられた者も明示的に取消し事由となるとあります。
今国会で成立が見込まれている法案です。
脱退一時金の請求が無かった場合に関係する老齢基礎年金にも公租公課が賦課されることについては【年金制度の仕組みと考え方_第3_公的年金制度の体系(年金給付)】を参照。
厚生労働省社会保障審議会年金部会での議論「日本に戻る前提の永住者が脱退一時金は違和感」
社会保障審議会(年金部会)|厚生労働省
資料
岸田総理の答弁にあった3月の厚生労働省の社会保障審議会年金部会での議論というのは、以下の小林洋一委員が指摘するようなものです。
第13回社会保障審議会年金部会 議事録|厚生労働省
○小林委員 ~省略~ 次に、議題2の脱退一時金についてです。 日本での永住をやめて母国に帰国されるということであれば理解できますが、永住権を保持した人なら、日本に戻ることを前提に国外に出るということでしょうから、そのときに脱退一時金を受け取ることができる仕組みには違和感があります。仮に何らかの事情で日本に戻れなくなったときのことを考慮しての制度ということであるのなら、申請、給付の手続等に関する技術的な問題はあると思いますが、脱退一時金相当額の受領の権利を確保するという形の制度にすることも一つの方法ではないかと思います。こうした権利留保の形にすれば、一時金の受け取りによって加入期間がリセットされてしまうという問題も多少は解消できるのではないかと思います。 以上です。
他、脱退一時金に関しては過去には第3社会保障審議会年金部会にて駒村康平委員から指摘があったことも触れておきます。
「脱退一時金を受給するケースはそもそも限定的であり必ずしも改正の必要はない」という岸田総理が紹介したような発言もありましたが、稲田議員が「限定的だとおっしゃるのであれば対象外にすべき」と指摘したように、合理性に欠ける話だと思います。
上掲のグラフを見れば、永住者の数は右肩上がりで増えているのが分かります。
で、この永住者の中で脱退一時金を請求したことがあるのかどうかは過去の分はトレースできていません。ですから、実態把握ができていません。今後はマイナンバーで紐づけできると思われますが。
もしも大量のケースがあったらどうするのか?民間では脱退一時金の請求を促すブローカーがHP等に解説まで掲載しているのですから、その可能性を低く見積もることは不合理ではでしょうか?
しかも、現在永住資格を有する者の中には将来的に日本国籍を取得、つまりは帰化をする者も相当数居ると考えられますが、そうした人は「外国人統計」には現れてきません。その中で「無年金状態」の者が出てきてしまったら生活保護一直線で、地方財政を圧迫します。
今後は永住資格の資格審査において、過去に脱退一時金の請求・支給を受けたことがあるかを加味して将来の年金状況を考慮に入れるべきでは?といった事も言えると思います。
永住許可を受けた在留外国人の生活保護受給者数増加の懸念と地方財政圧迫の問題1⃣台湾人など元日本人同胞で敗戦により強制的に国籍が無くなった不幸があるので特別永住者制度を設けるのは仁義を通したということ 2⃣相続で地位が引き継がれ無国籍者も居る実態があるためどこかで相続継承を止めるべき 3⃣数は右肩下がりで減少しているのである程度は時間が解決してくれる pic.twitter.com/RB4G2hoDrF
— Nathan(ねーさん) (@Nathankirinoha) May 9, 2024
外国人の脱退一時金の問題は、究極には地方財政圧迫の問題として把握されるものです。この流れでは、永住資格を受けている者・受けようとしている者の生活保護受給者の数が問題になります。
今般の入管法改正案では「故意に公租公課を支払わない永住者」が永住資格取消しの対象ですが、これでは「故意とまでは言えないが支払えない状況になる永住者」は対象外です。個人の家計状況に関して「故意」とまで認定できるでしょうか?そういうケースも多いと考えられます。
そうなると、生活保護に流れていきますが、これは外国人に対する生活保護制度の本来の趣旨からは外れています。元々は特別永住外国人に対する制度だったはずです。
地方財政の問題として考えれば、この点は避けては通れないでしょう。
生活保護を受給している者の内、在留資格別の統計がどこにあるのか? 生活保護の措置を採るとして、その基準はどこに定めるべきなのか?諸外国の例と比べて日本の現状はどうなっているのか?12今後はこのあたりが明らかにされていって欲しいと感じています。
1:諸外国における外国人受け入れ制度の概要と 影響をめぐる各種議論に関する調査 2:諸外国の公的扶助制度の比較