インドでは、パンデミック以来デジタル化が急速に進んでいる。インターネットやスマートフォン、電子決済の普及が消費行動に変化をもたらし、EC市場も大きく成長。JETROによると2030年までに3500億ドル規模に成長し、2034年までに米国を抜いて世界第2位になると予想されている。インドではスタートアップの活躍も目覚ましく、ユニコーン企業の誕生が相次いでいる。
このような背景のもと、2021年にECロールアップ企業Mensa Brandsが誕生した。独自のビジネスモデルを駆使し、わずか6か月で黒字化を達成。評価額10億ドル超を達成してインド最速のユニコーンとなった、注目の企業だ。
創業者はビジネス×テック分野のリーダー
Mensa Brandsの創業者Ananth Narayanan氏は、ビジネスとテクノロジーの分野で築いたキャリアを活かし、インドのビジネス界を力強く牽引するリーダーの一人だ。彼のキャリアは、経営コンサルティング会社McKinsey & Companyにおける15年間の勤務から始まる。アメリカ・中国・インドのオフィスにて、ビジネス戦略やコンサルティングに関する深い知識を得たのち、2015年にインド最大手ファッション・ライフスタイルECのMyntraのCEOに就任。わずか3年半でMyntraを6倍に急成長させ、Jabongの買収・合併にも重要な役割を果たした。
2017年、インド最大の日用消費財Maricoの取締役に就任。2019年には、オンライン薬局のMedlifeの共同創業者兼CEOを務め、PharmEasyによる買収・合併に導いた。
Ananth Narayanan氏が、長年にわたるキャリアの中で培ってきた知識と技術、経験とアイディアを総動員し、満を持して創業したのがMensa Brandsだ。
「Thrasioモデル」から着想した独自モデル展開
Mensa Brandsのビジネスモデルは、いわゆる「Thrasioモデル」から着想を得ている。米国をはじめ世界各地にオフィスを構えるECユニコーン企業Thrasioによる「良質なブランドを買収して、良質な顧客体験を提供する」という戦略である。(なおThrasioは新鋭のビジネスモデルで世界で大きく脚光を浴びながらも、2024年2月、日本の民事再生法にあたる米連邦破産法第11条を申請している。)Mensa BrandsはこのThrasioモデルを起点として、独自のビジネスモデルを展開。インドのデジタルファーストブランドやD2Cブランドを買収し、ハウス・オブ・ブランドを構築(参考)。インド国内市場およびグローバル市場でのスケールアップを実現し、顧客体験を向上させることで急成長している。
2024年4月現在、Mensa Brandsは傘下にファッション、ホーム&ガーデン、ビューティー&FMCG(日用消費財)、コンテンツ&クリエイターの4分野で25ブランドを擁している。その多くが、買収後に年間平均100%以上の成長を遂げている点は、特に注目に値する。
Mensa Brandsの成功の鍵は、データテクノロジー、製品開発、デジタルマーケティングを組み合わせたことだろう。ブランド獲得には、機械学習とビッグデータを使用し、クオリティが高く財務が健全なブランドを厳選する。在庫は、主要なマーケットプレイスであるAmazon、Flipkart、Ajio、Nykaaや公式ウェブサイトで最適化し、価格は、テック主導のマーケティングで最適化する(参考)。さらに、消費者のニーズとトレンドを見極め、テック主導の製品開発も行っている。
また、販売・注文・供給のプラットフォームを統合し、オムニチャネルを中心とした顧客体験を提供。Mensa Brandsはクオリティと顧客体験を重視しているようで、各ブランドが顧客体験において上位10位に入る必要があると謳っている。