消費者教育とプロモーション

 このように徹底的にこだわった本物のソーセージを消費者においしく食してもらうために、日本ハムは食べ方にもこだわった。当時の日本では、ソーセージといえば焼くものであったが、本来の風味や食感を味わってもらうため、本場ドイツ同様、茹でることを強く推奨した。電子レンジの使用すら禁止するという徹底ぶりであった。

 こうして満を持して発売したものの、当初の売り上げは芳しくなかった。価格が高かったことに加え、羊の腸の皮を敬遠する消費者が多かった。そこで、当時は珍しかったスーパーでの試食販売に着手し、消費者に味、食感、パリッとした音を体感させた。さらに、テレビCMを展開し、「美味なる物には音がある!」というコピーを広め、発売翌年には売上260億円を達成している。

 トップシェアを誇るシャウエッセンではあるが、成長という視点でとらえると、一時、停滞気味になっていた。多くのロングセラー商品に共通することだが、主たる顧客層が50代以上と高齢化する一方、若者をうまくとりこめていなかったのだ。そこで、何か抜本的かつ斬新な取り組みが求められていた。

 しかし、会社にとって極めて重要な看板商品であるシャウエッセンは、長きにわたり「伝統を守る」という極めて保守的に管理されていた。社内には「切ってはいけない、焼いてはいけない、違う味を出してはいけない」といった“シャウエッセンの掟”があり、厳格に守られてきた。

 こうした状況に対して、井川社長は大胆な改革を進めた。まず、スライスしたシャウエッセンを載せた“シャウエッセンピザ”を発売。また、ホットチリやチーズなど、新たなテイストが加えられた。またウインナーのサイズのバリエーションも拡げた。さらには、これまで禁止していた電子レンジでの調理も解禁するという徹底ぶりであった。こうした施策に対して、開発に携わったOBたちを中心に大きな反発があったが、井川社長は何よりもチャレンジすることが重要であるとの考えのもと、粘り強く理解を求めていった。