私が気にしているのはこのBYDの特定の車種の話というより中国がEV大競合時代を経て車の品質や性能に磨きがかかっている事実を我々は見ないふりをしているのだろうと思うのです。そしていざ、目の前に突き付けられた時、果たして我々は本当に競合できるのだろうか、という疑問があるのです。
例えばアメリカは中国車に対して超高関税で実質的な貿易障壁を作っているし、更にその関税率を高めようとしています。関税政策というのは自国産業が孵化レベル(incubation level)にある際に産業復興のための時間稼ぎをするのが主眼です。ところが例えばトランプ氏の関税政策を見ると時間稼ぎではなく、戦いそのものを拒否しているのです。もちろん中国に個人情報が奪われるという理由はあります。ただそれを別にしてもアメリカは全般的に産業育成に昔から力を入れなかったし、産業界もそのガッツは持ち合わせていないと考えています。故に繊維、鉄鋼、自動車など多くの業種でアメリカは競争力を失い、他国の最先端の技術に頼らざるを得ない状況が続きます。これがアメリカの産業構造上の最大の弱点とみています。一言で言うと粘りがないのです。
今回のEVという新しいビジネス機会について日本はアメリカと同調し、また日本は国内世論がEVにあまり賛同していないことも相まってトヨタはやっぱり正しかったというスタンスであり、ホンダはEV偏重で大丈夫かという意見が出ています。ではお前はどう考えるのか、と言えば20年後はホンダがトヨタを逆転する可能性すらあるとみています。あくまでも可能性ですが、ホンダがEV推進政策を不可逆的な絶対方針として取り入れたことは中途半端な立ち回りの他社と比して時流に乗せやすいとみています。
様々なニュースを見て頂ければお分かりですが、自動車が売れるのはアメリカだけではないのです。世界市場ベースで見なくてはいけません。例えばアジアではタイにおける中国製EVが日本車市場を食っています。ブラジルでは1-4月に中国製EVが前年同期比8倍と報じられています。
私が問題にするのはクルマをこれから手にする世代にとってはEVでも内燃機関でも差はないのです。どちらのマーケティングが上手でどちらのクルマに魅力を感じるかであって我々のように内燃機関のクルマで育った世代とは明らかに価値観が違う点を意識すべきでしょう。そうすればあと20-30年という過渡期を過ぎた時、EVが実用市場の中心で趣味のクルマとして内燃機関のクルマが存在する時代になると想像するのはさほど難しくないと考えるのです。
その頃はGTRもEV仕様かもしれないし、内燃機関バージョンのGTRに乗っていれば「おまえ、凄いな、エンジンのGTRじゃないか!ところでお前、何処でガソリン入れるんだい?この辺りにはスタンドは皆無だぜ」という冗談のような話になるのでしょう。また各国や州政府は時としてとてもワイルドな政策を取り入れるものです。私の大胆予想は2040年頃を境に内燃機関のクルマ販売には高額の環境税を課し、実質的に販売をしにくくする国や地域が増えるだろうとみています。
諸外国の政府戦略というのは個人の好みを必ずしも聞き入れない強い強制力があり、その感覚は日本の方にはわかりにくいと思います。これが先日私が指摘した一神教と多神教の違いからくる自由度の感覚の相違でもあるともいえます。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2024年5月16日の記事より転載させていただきました。
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