その翌日の23日、ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢」(AfD)の欧州議会マクシミリアン・クラー議員(47)のスタッフの一人、中国系ドイツ人ジャン・Gが中国のためにスパイ活動をしていたという理由で逮捕されたことが明らかになった。ドイツメディアは極右政党AfD議員と中国系ドイツ人のスパイ活動の関連について大きく報道している。
ドイツのナンシー・フェーザー内相(社会民主党=SPD)は、「スパイ活動の疑惑は極めて重大だ。もし欧州議会から中国の情報機関に情報が流れるなどのスパイ活動が確認されれば、それは欧州の民主主義への内部からの攻撃だ」と述べた。また、「中国の反体制派を監視する疑いも同様に重い。そのような職員を雇用する者は、その責任を負わなければならない」と強調した。
ドイツ週刊誌シュピーゲル電子版によると、ドイツ連邦検察庁は22日、ドレスデンでGを逮捕した。Gは中国の情報機関の職員であり、2019年以来、欧州議会のドイツ人メンバー、クラー議員の職員として働いてきた。クラー議員自身は「Gの逮捕は23日午前中に知らされた。他国のためのスパイ活動は重大な問題だ。事実と判明したら、直ちに雇用関係を打ち切る」と述べている。欧州議会側は22日正午には、「事の重大性を考慮して、議会は該当者を即時に停職処分とした」と説明した。
一方、ロビー組織のLobbycontrolは、クラー議員に対してこの問題での対応の不手際を非難した。「Gに対するスパイ活動の疑いは、すでに2023年に知られていたが、クラー議員は何の措置も取らなかった」と指摘している。
ドイツメディアによると、Gは43歳、中国生まれだ。現在はドイツ国籍を持ち、ドイツでの学業修了後は一時事業家として活動していたが、クラー議員が欧州議会に就任すると、Gはブリュッセルのチームでアシスタントとして雇われた。GはAfD政治家の中国旅行にも同行した。少なくともこの時点から、北京当局のために働いていたとされる。
また、捜査当局は、Gがドイツで中国の亡命中国人組織をスパイ活動していたと非難している。彼は様々な役割で反体制派グループに関与し、中国の反体制派に関する情報を収集し、情報を中国の国家安全部(MSS)に提供していた疑いが持たれている。
一方、AfDの連邦本部は23日、「クラー氏の職員がスパイ活動の疑いで逮捕されたという報道は非常に心配だ。現時点でこの件に関する追加情報がないため、引き続き連邦検事のさらなる捜査を待たなければならない」という。クラー氏は2022年以来、AfDの連邦執行委員会のメンバーであり、6月の欧州議会選挙で党の筆頭候補者となっている。
なお、クラー議員はクレムリンとの接触があることが知られている。米連邦捜査局FBIは昨年末、訪米中のクラー議員に対して、クレムリンの関係者からの支払い問題について尋問している。ウクライナ人の親ロシア派活動家オレグ・ヴォロシン氏(Oleg Woloschyn)がクラー議員とのチャットメッセージの中で、クラー議員に協力の見返りとして適切な補償を約束したとされる。
AfDは移民・難民問題で徹底した外国人排斥、移民・難民反対で有権者の支持を得て、世論調査では野党第1党「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)に次いで第2の支持率を挙げてきたが、6月の欧州議会選を控え、ロシア寄りが指摘され、支持率を少し落としてきた。そこにクラー議員のスタッフが中国のスパイだった疑いが発覚して、国民のAfDを見る目が厳しくなってきている。AfDには説明責任が出てきた。
(クラー議員は24日、AfD連邦幹部会で今回の件を説明、スパイ容疑をかけられたGを即解雇すると発表する一方、6月9日に実施される欧州議会選には党筆頭候補者として出馬する意向を明らかにした)
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2024年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。
提供元・アゴラ 言論プラットフォーム
【関連記事】
・「お金くばりおじさん」を批判する「何もしないおじさん」
・大人の発達障害検査をしに行った時の話
・反原発国はオーストリアに続け?
・SNSが「凶器」となった歴史:『炎上するバカさせるバカ』
・強迫的に縁起をかついではいませんか?