ファッションは奥が深い

その日の私はキマっていた。新調したばかりのトムフォードのスーツに、ターンブル&アッサーのシャツ、ブルーのレジメンタルタイをあわせた。足元はEdward Greenのレースアップに、左手に輝くのはヴァシュロンのパトリモニーである。

来日したてのハリウッドスターに間違えられてもおかしくない、と鏡に映る自分の姿に朝から惚れ惚れとしていたのだった。

本日の取引先は、重厚長大の歴史ある会社。成功すれば、年間数億円の取引も夢ではない有望なクライアントである。前夜までプレゼン資料を必死に練り上げた私は、書類の再確認と身だしなみと髪型のチェックに余念がなかった。

「おはようございます」

通された会議室には、専務をはじめとする重役が勢ぞろいしていた。最新のIT機器が備わった、スマートかつファッショナブルな会議室だった。この日のために提案資料は練りに練り上げ、資料の文言は一字一句頭の中に入っていた。

プレゼンも完璧と思っていた……「受注は確定」のはずだが、見事に失注した。

担当者が次のように言う。

「尾藤様の服装が少々弊社にはそぐわないという話になりまして。他社に決めさせていただきました。また、プレゼンの際の横文字言葉も気になりました。申し訳ございません」

受話器を置いた後も、私は呆然としていた。「スーツや調度品は良いものを身に着けるように」と指導されていた私は、少々、身分不相応な格好をしていたのかも知れない。まだ20代の頃の話である。

さて、このようなときに、本書があればとても便利ではないか。ファッションに興味のある方、スタイルを変更したい方に読んでもらいたい一冊として紹介したい。

尾藤 克之(コラムニスト・著述家)

2年振りに22冊目の本を出版しました。

「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)

提供元・アゴラ 言論プラットフォーム

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