公正取引委員会は7日、日産自動車が下請法に違反しているとして再発防止を勧告した。下請けの自動車部品メーカー36社への支払代金約30億2300万円を不当に減額していた。日産は下請けメーカーに対し、契約書で定められた発注額から「割戻金」として一部を差し引いた代金を支払い、割戻金が発注額の2~5割に上るケースもあったという。また、一部報道によれば、日産が金額を決めないまま発注して部品を製造させたり、下請けメーカーが見積もりを提示しても日産が一方的に発注金額を指定したりしていたという。なぜ日産はこのような悪質な違法行為を繰り返していたのか。

 まず、日産による下請けへの値下げ強要はどのような実態なのか。自動車業界を取材するジャーナリストの桜井遼氏はいう。

「どの自動車メーカーも定期的に部品メーカーとの間で原価低減を行っており、使用する資材や生産工程など様々な面からお互いにアイディアを出し合いながら進めていく。たとえば低減目標金額が100万円だったとして、仮に50万円しか下がらなかった場合は、その結果を前提に自動車メーカーと部品メーカーが25万円ずつ利益を折半するというかたちをとっている。だが日産は50万円しか下がらなかった場合でも『100万円低減できていれば得られたはずの50万円分の利益はきっちりもらいますよ』というロジックで、足りない分を割戻金というかたちで部品メーカーから吸い上げていた。かつてはどの自動車メーカーも同じようなことをやっていたが、『さすがにまずいよね』ということで是正した一方、日産はいまだに続けていた」

 なぜ日産はこのような不当行為を続けていたのか。

「日産リバイバルプランで調達先の数を大きく絞った過去もあり、日産は他の自動車メーカーと比較して下請けに厳しい傾向があり、下請けメーカー側も取引を切られるのを恐れて声をあげられない。たとえば、トヨタ自動車とホンダは今期、物価・人件費の上昇などを鑑みて下請けへの定期的な値下げ交渉を見送り、部品メーカーが原価低減できた分は自分たちの利益にしていいですよというかたちにしていたが、日産は値下げ交渉を行っていた。このように日産には下請けに対して冷たい面がある」

日産リバイバルプランの成功体験

 2兆円の有利子負債を抱え破綻危機に陥った日産は1999年、仏ルノーと資本提携し、ルノーは当時副社長だったカルロス・ゴーン氏を日産のCOO(最高執行責任者)に就かせた。ゴーン氏は5年以内に日産を再建させると宣言し、2.1万人の人員削減や部品などの調達先の50%削減などを盛り込んだ「日産リバイバルプラン」を発表。2000年3月期連結決算で一気に特別損失を計上して当期利益が6844億円の赤字となったが、翌01年3月期には純損益が3311億円の黒字に転換する「V字回復」を果たした。

 部品調達先の削減は自動車業界の慣例である「ケイレツ」の解体を意味した。日産は調達先を絞り込み1社あたりへの発注量を増やすのと引き換えに大幅な値引きを要請。これによりコスト削減を実現してきた。

「日産はリバイバルプランの成功体験に味をしめて、現在でも部品メーカーへの大幅な値下げ要請を続けている。社内ではコスト削減目標が設定されており、担当者は下請けに値下げをのませれば自身の評価アップにつながるので、決算前などに駆け込みで下請けに割引をさせるというようなことまで横行していた。また、発注金額を決めずに発注して部品をつくらせるというのは、商取引として法律的にも慣習的にもあり得ない。ゴーン政権が長すぎたこともあり、社内は感覚が完全に麻痺しているのでは」(自動車業界関係者)

 また、自動車業界関係者はいう。

「下請けへの値下げ要請の慣習があるのは日産だけに限らない。たとえばトヨタ自動車は半年に1回のペースで部品メーカーと発注額の見直し協議を行っており、原価低減を名目に基本的に毎回1%程度の値下げを行っている。ただ、状況に応じて一部の部品メーカーを対象外にしたり、原材料やエネルギー価格の上昇が発生した場合は部品メーカーに発生するコスト増分の一部をトヨタが負担することもあり、柔軟にやっている。日産はときに数割もの値下げを強要しており、いったん取り決めた契約金額より割引した金額で発注していたということなので、かなり悪質。

 24年3月期決算で過去最高益を見込むトヨタをはじめ自動車メーカー各社の業績は悪くない。しかし、その裏には下請けに値下げさせるという業界独自の慣習があり、下請けの間では『結局儲かっているのは最終メーカーだけ』という怨嗟(えんさ)の声が根強い。数年前には日本製鉄が大口の鋼材供給先であるトヨタに大幅な値上げを要求し『反旗を翻した』と話題となった件も記憶に新しいが、今回日産の下請けが声をあげて公取委を動かしたこともあり、絶対的な強者として自動車メーカーが頂点に立つ自動車業界のあり方が変わってくるかもしれない」